ぼくは列車に乗っていたんだ。
妙な列車だったんだよ。
床も座席も窓枠も木で出来ていた。
子どもの頃だったにしても、
ずいぶん古めかしい列車だったよ。
おまけに真っ暗な夜なんだ。
どこを走っているのか分からない。
窓の外には何も見えない。
時々ちら、と光って後ろに逃げていったのは、
あれはなんだったんだろう。
とにかくそうして列車に乗っていたんだ。ずっとずっと一人きりで。
そしたら紅茶を売りに来たんだ。
お茶の御用はございませんか
お茶の御用はございませんか
声がしてね。
給仕服の男がポットと茶碗を抱えてやって来たんだ。
客室がじらじらと揺れた。
お茶の葉とシナモンの枝をよくよく煮込んで甘くした匂いが
ぼくのとこまでとろとろ漂ってきたんだ。
それが実にいい匂いなんだ。
なんとも胸が詰まる様なんだ。
ぼくは堪らない気持ちがしたよ。
よっぽど紅茶をもらおうと思ったよ。
だけど何故だかどぎまぎしていて、そのうち給仕服は行ってしまうんだ。
お茶の御用はございませんか
お茶の御用はございませんか
教師がぼくの机を酷く叩いてね
すべては夢みたいに真っ白になって消えてしまった。
ぼくはいつもの教室にいるだけだった。
実にそれだけだったのだった。
ぼくは未だに思うんだ、
あの時紅茶を買っていたら、
今頃どこを走ってるんだろう、てね。