小説「ハンバーグ小説」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ファミレスでハンバーグサミットが開かれている。参加メンバーは私と、仲村。道を歩いていて昼になったからファミレスに入って食事をしている。仲村が言ったのだ。

「ハンバーグって、大体パターンが決まってないか?」

「日本料理ってそんなもんでしょ?」

 仲村は目玉焼きとエビフライが付いてるハンバーグ(こどもか)を頼んで、私はたらこのスパゲティにしていた。仲村がエビフライにハンバーグのソースを塗ってもぐもぐしながら言った。

「例えばスパゲティだったらさ、」

「口にもの入れてしゃべるな。」

 もぐもぐごっくん。

「すまん。いや。例えばグラタンとかスパゲティだったらもっと間口が広いじゃないか。肉とか野菜とか組み合わせ変えたらバリエーションが広がるだろ。だけどハンバーグってもう大体パターンが決まってんじゃないのかって今思ったんだ。」

「例えば?」

 スパゲティくるくる。

「まず基本として牛と豚の合いびき肉に玉ねぎと玉子とパン粉だよな。これが第一条件だ。この基本を無視して鶏肉とかイカを使ってハンバーグって言い張る場合もあるけど、この例外は今は無視しよう。この前提の上で一番オーソドックスなのがケチャップとソースを半々に合わせたいわゆるバーベキューソースだ。日本のお母さんの常套手段と言えるだろう。」

「だいたいからしてなんでこれをバーベキューソースと言うんだろう。」

 たらこもぐもぐ。

「バーベキューの時に付けて食べるんだろ?」

「でも外でバーベキューする時ケチャップとソースなんて使わないよ。」

「100パー焼肉のタレ買うよな。」

 ごはんがつがつ。

「これがまず1つ。それから大根おろしに紫蘇に醤油、いわゆる和風ハンバーグというやつだ。」

「ポン酢もありだぜ。」

「うん、俺んちは最近これが多い。あとはトマトソースがデミグラスソースなんかで煮込みハンバーグにするだろ、」

「それ、正確な発音はドミグラスソースだよ。」

「そうなの?」

「うん。」

 お水ごっくん。

「あとは、そうだな。チーズ乗っけてとろけさすとか。」

「うちはそれだった。」

「そうなの?旨そう。」

「お父さんがチーズ好きだったの。」

「そうじゃなかったらカレーのトッピングにするとか、こんな風にエビフライ付けるとか、もうそのくらいなんじゃないか。これからの新しいハンバーグについて考えてみないか、ここで。」

 と仲村が言い出した。こいつのこういうめんどくさい思考論はいつものことなんだが、私の方では仲村とだらだらどうでもいいことを話し続けるのは実は結構好きなのだ。

「伊東、例えばどんなのがあると思う?」

 ハンバーグ切り切り。

「うーんそうだな。新しいハンバーグって言っても、多分ソースを考えるってことでしょ。肉の配合を変えないんだったら。ホワイトソースかけてグラタンにしたら。」

「牛肉にクリーム系は合わないと思うぞ。」

「じゃあ野菜で甘酢あんかけにするとか。」

「甘酢か?それじゃ酢豚みたいになるんじゃないのか。」

「いけないの?酢豚ハンバーグ。」

「いけなくはないけど、受けはよくないんじゃないかな。」

「そうねえ。じゃあこれは?食べるラー油ハンバーグ。」

「あ、俺それあんまり好きじゃない。」

「何で?」

 フォークくるくる。

「だってラー油って油だぞ。俺油が調味料ってのがなんかしっくりこないんだよなあ。」

「ヨーロッパ文化圏だったらパンやサラダにオリーブオイルだけかけて食べたりするよ。」

「ここは日本だ。」

「さいですか。」

「ホットドッグみたいにマスタードかけたらどうだろう。」

「それだと普通にハンバーガーってことでいいんでない。」

「じゃあラタトゥイユだ。」

「それだと単にトマトソースじゃない。」

「じゃあシンプルに塩ハンバーグだ。」

「さみしいよ。」

 スパゲティぱくぱく。

 食べながら二人でアイディアを出していったんだけどなかなかこれと言うのが見つからなかった。いつの間にか、ファミレスの次の新メニューというテーマに意識が移項していったみたいである。つまり、斬新だけど万民受けするハンバーグとは何か?について考えている。

 仲村はノーアイディアみたいで自分の分をさっさと食べ終わるとウェイトレスを呼んでドリンクバーを追加注文していた。仲村と会話していると、それが終着点を得ずに終わることはままあることだ。私はそれがいやではない。お互いの言語を鍬にして自分の頭をせっせと耕している気分になり、清清しい。掘り起こしたばかりの土の匂い。

 最後の一刺しを口に入れて私は思いついた。そこで急いでもぐもぐする。

「こういうのどうだろう。ヨーグルトソース。」

「え、ヨーグルト?」

 仲村がブラックコーヒーを飲みながら聞き返す。

「うん。中東のね、ケバブに付けるソースでヨーグルトのソースがあったと思う。そんな感じ。」

「あれは羊の臭みを消すためなんだろ。」

「牛豚もそれなりに臭みはあるしね。そもそもソースってものの発想が臭み消しなんだし。パティをちょっとスパイシーにしたら結構合うと思うんだけど。」

「ヨーグルトねえ。」

 仲村がコーヒーを啜る。私の出した意見について脳内で意見をまとめているみたいだ。しばらく黙ってから言う。

「うん、いいな、それ。それに決定だ。ではこれよりレシピ開発に入ります。」

 この人のどこが好きかと言うと、こういうふうに会話しているといくらでも時間が潰せるところだ。たぶんあと1時間は固い。

 そう思った私は中村をさえぎってウェイトレスを呼ぶと、自分のドリンクバーを注文した。