文淵の徒然なるかな -3ページ目

文淵の徒然なるかな

日々のあれこれ

 本隊が動きが陰士【おんし】より伝えられた頃に一行は海を隔てた鬼ヶ島を眼前にしていた。一行らの傷は癒え、後は攻めいるばかりであったが、庚申の提案する海上に迎え討ちに出るであろう海賊船群の動きを待つ事にした。

「しかし本隊を陽動に使うとはな」
「そないせんと数の差で負けますわ」
「わかってはいるが……」
 庚申の言葉に納得仕切れていない壮介であったが、桃太郎が庚申の言葉を支える。

「壮介、我々が拠点を強襲しその後に討伐本隊が、次いで鬼ヶ島へ上陸しなければ我々の敗北は確定です。討って出た鬼が本拠地襲撃と討伐本隊の間で揺れてもらわなければ勝ち目はありません」
「承知している……」
「その割りに不満そうやけどな」
「違うのだ。漠然とだが不安でな」
「壮介」
「壮介はん」

 皆口にはしないが壮介と同じ気持ちではあった。だがやらねば活路は開けない。いくら練度ある海軍と言えど七つの海を超え来た海賊……鬼相手に正面から勝てるとは言い難いのだ。
 警固役も地上では強いが海上とあれば、差は自ずと開く、誰かが拠点を抑えた上で海賊の動揺を誘い二分する、あるいは引き返させなければならない。
 警固役を鬼ヶ島へと上陸させれば勝ちは揺るぎないが、海戦で多く兵を失えばそれも危ういのだ。
 まして負ければ海賊の勢い……鬼の勢いは増し今以上の被害が出る。かといって上陸に月日をかければ尾上が今以上に鬼を鍛えあげ、脅威が増すのは目に見えている。
 ここでやらなければならないのだ。誰も口にせずとも痛いほど理解していた。退く事はできないと、そして援軍も得られぬ中で成し遂げなければならない。たった四人で、百を超える鬼と相対しなければならないのだ。壮介の漠然とした不安も頷ける。だが拒否する事は許されない。
 必ず成さなければならない。その重責を皆が感じているのは事実であった。

「壮介……いや皆様」

 桃太郎は改めて皆の前に立ち頭を下げた。

「私は鬼を討つのが天命と信じております。これ以上鬼に泣く者が無いように鬼を討つべく生涯を賭すつもりです。もし皆に不安や迷いがあるならばここで降りても私は責めません。しかしついて来られるなら覚悟をお決めください。ただ……出来れば力をお貸し頂きたい」

 深く深く頭を下げる桃太郎に皆は桃太郎の覚悟を垣間見た。言葉通り鬼を討つべく鍛えあげられた武技は天命とする覚悟と言える。しかし齢に見あわぬ歪さも感じていた。違う生を歩む事も許されるだろうと、皆思うが、また同時にそれは違うとも思うのだ。成せる力を持ち、その道を進まんとする意思を誰が挫けると言うのか、過酷な道を歩む覚悟を持つ者に惹かれたからこそ、皆ここにいる。それぞれ思うところはある。しかしそれはまだ先の話なのだ。
 誰も降りるつもりは無かった。目的を果たすまで道を違えるつもりは無かった。

「馬鹿を申すな。拙者は桃太郎殿に仕えると決めたのだ。どのような道であろうとついて行く」
「壮介はんに先越されたんは癪ですけど、桃太郎はんの為ならいくらでも働かせてもらいます。出来たら出世払いで頼んますわ」
「わたしも桃太郎のためなら……できればその……側に置いて……いや、仕えさせてくれ」
「顔真っ赤にしてこっちまで恥ずかしなりますわ」
「う、うるさい」
「わかりました。必ずや此度の討伐を生き残り、数多居る鬼を討伐した暁に必ず皆様の恩に報いれるように勤めます」
「堅いなあ」
「しかし今は何も報いる事ができないのは事実です」「報い程度で皆命賭けますかいな。しかもめちゃくちゃ分の悪い賭けやのに」
「申し訳ない」
「皆好きでやってるんや。今必要なのはやる気の出る言葉やで桃太郎はん」
「庚申様……ええ、わかりました」

 庚申の言葉を受けて桃太郎は笑う。そして皆の顔を真剣な眼差しで見て気声を放つ。

「我らが目指すは鬼ヶ島!我らが討つべきは鬼!賭けるは我らの命!さあいざ往かん鬼ヶ島!覚悟は良いか!」

「「応!」」

 桃太郎の掛け声に皆が答え、重苦しくあったものが霧散した。晴れやな顔をした一行は鬼ヶ島を睨むのであった。
 

 翌日暮れに鬼達の船が動き出した。そして明け方に一行は運良く立ち込めた朝霧に乗じて鬼ヶ島へと舟を出すのであった。