文淵の徒然なるかな -2ページ目

文淵の徒然なるかな

日々のあれこれ

 朝霧に乗じて舟は鬼ヶ島へと進められた。周辺を警戒する海賊船は無く、桃太郎らが乗る舟は沿岸を見張るところへと近づく、鬼らは灯りを持ち周囲を見張っていたので、桃太郎と涼の手によって静かに排除された。

「お二人の弓の腕前で楽に上陸できますわ」
「ほぼ点のような灯りを良く見抜いて射抜けるな」
「桃太郎の手解きのおかげだ」
「風が無いのが幸いでした。ひとまず上陸しましょう」

 上陸の際に戦闘があると想定していた庚申だったが、桃太郎と涼の弓が目算していたよりも技術が高く、素早く見張りを排除できたおかげで一行は難なく鬼ヶ島へと上陸を果たした。

 排除した見張りの配置から庚申は拠点を割り出し、一行は庚申を先頭に鬼らの拠点を見つけた。

 鬼らは討伐本隊を迎え討つ為か数は少なく、未だ晴れぬ朝霧に乗じて一行は見張りを減らしていく。
 周辺の見張りを全て倒すと、桃太郎と庚申の二人で仕掛けを周囲へと設置してまわる。罠と狼煙変わりになる木々を焼きはらう仕掛けが終わる頃に、壮介と涼は籠城に必要なものを集め終えた。

「まさか一戦前に力仕事があるとは思って無かった」
「食糧と薬草の確保、薪を集め終わった。水は汲めるだけ汲んだぞ」
「こちらも罠と仕掛け終わったわ」
「壮介大丈夫ですか、庚申様少し休みを入れましょう」
「せやな。霧が晴れたら動きが激しくなるけど、しっかり休んでから突入しましょか」

 一行は霧が晴れるまで休むのであった。想定していた通り鬼が動き初めたが、晴れると同時に仕掛けを動かし初める。森のあちらこちらから火の手が上がり初める。

「さて、もう突入する他無くなりました」
「まさか全ての森を焼く気か?」
「遠く離れた海上から異変があったと見せるには、この方法以外にありませんからな」

 周囲麓から勢い良く上がる火の手と煙は勢い良く駆け上がってくる様子に壮介は桃太郎と庚申に問うた。

「仕掛けとやらは山を覆う森全てに仕掛けたのか」

 その問いは半刻足らずで山を回ったのかという問いと同じであったが、庚申の用意した斧を手に一人木を切り汗を流した壮介からすれば汗ひとつ流さずにいた二人に恨み言のひとつも言いたくあったが、この山を迷わず半刻で走るなど真似できそうにもない。だが壮介の問いに庚申は簡単に答えた。

「せや、半分……以上は桃太郎はんが受けもってくれたから半刻足らずでいけましたけどな。しかしあんな戦鎧着てよう動けますわ」
「ああ、まったくだな」

 戦鎧を身につけた桃太郎を見る壮介と庚申であった。薄延べた鉄の板がつづら折りに編み込まれ、衝撃と貫通を防ぐ馬上で用いる事を前提とした朱色の楯無であった。
 納め箱を背負った経験がある壮介と庚申は桃太郎の体力を改めて知り呆れるのであった。

「虚実の修練の時に借りて走ったが、並みの者なら走る事も出来んだろうな」
「改めて、桃太郎はんは凄い思いますわ」
「男二人で密談か」
「お涼も一度背負ってみれば良かったのだ」
「壮介……お涼はんは貴族の姫君って忘れてたやろ」「すまない、失念していた」「ふふふ、いいさ気にしていない。それよりも庚申様どういった手はずをされるのですか」「とりあえず火の手が上がったことを警戒して動きを見せると思います。鬼が出てきたら桃太郎はんが誘導で鬼を射貫き引きつけます。露払いに涼はんがわてらの進む道を切り開いて、壮介が先頭で突っ込んで、わては周囲の鬼を撹乱しますわ。涼はんと桃太郎はんは周囲の鬼を殲滅した後に合流という流れですな」「なんとも単純だな」「ここまで来て奇策を使う用いる必要はないですわ。突入失敗はないと思いますしな」 三人の話が終えると同時に鬼が洞穴から十人単位で出てきた。ある程度広がったところで桃太郎の放つ矢が鬼を次々と射貫いていく。
「桃太郎はんが四、五人くらいおる勢いで射貫いていますな。とりあえず手筈通りに進めましょか」
 予想よりも勢い良く鬼が桃太郎の矢によって倒れる鬼を見て思わず呆れる庚申だったが、気を取り直した庚申の言葉に涼が残った鬼を素早く射貫いていく。そして出番だと言わんばかりに庚申が壮介の肩を叩いて合図した。勢い良く駆け出していく壮介の影に隠れるように庚申も駆け出した。
 こうして鬼ヶ島征伐は幕を上げた。