2000年に川崎市に出来た「子ども権利条例」の具現化である「川崎市子ども夢パーク」(ゆめパ)を取材したドキュメンタリー。不登校の子供達を含めて、来たい人は誰でも来られる無料のスペースで、とにかくキャパシティが凄い。工場跡地を利用した約1万㎡の敷地に音楽スタジオ、木工などの創作スペースの他にも学校に行っていない子供のための「フリースペースえん」などが開設されている。利用者層は乳幼児から高校生くらいまでと幅広い。

 

「ドラえもん」のスネオ達が遊んでいたような、子供がのびのび遊べる広い公園は無くなって久しいと言われる昨今。「さとにきたらええやん」で子供の居場所の重要性をテーマにした重江良樹監督が選んだ題材です。監督はエッセイの中で――“思えば自分自身10代の頃は自分に自信が無く、人の顔色ばかりを気にし「自分は何者なのか、どのように生きていくのか」について悩み、学校内外のコミュニティを転々としていました。”――と書いています。

 

こういう人こそ人間相手の仕事に向いているわけで、それこそ重江監督には小中高校の先生になって欲しかったところですが、彼はドキュメンタリー監督の道を選ばれた。しかし、人間相手の仕事に向いている人のインタビューというものは面白い。本作の劇中には、1人、カメラ目線にならない少年が登場する。彼に「映画だからカメラの方を見て」と強制すれば彼はそうしてくれたに違いないし、映画としてはスマートになったかもしれない。けれどもそれは、観客の人間観察を妨げたでしょう。カメラ目線にならないまま、少年は真剣に重江監督のインタビューに答えている。それが他の子には無い、彼の個性なのです。

 

一方、現実問題として不登校になる学校のシステムから外れる、ということは、本人にとって怖いこと。そこでこの社会教育施設に通うことが、決してその子の不利益にならないように、「ゆめパ」では遊びの中で税金に関する教育なども行われている。そもそも男子も女子も、子供時代は“やんちゃ”、“ごんた”なもの。でも、どこかの時点で日本人は綺麗に「刈りそろえ」られていくという実感があります。夢パの実践が教育の新しい波になるのかどうか?これからが楽しみになるドキュメンタリー映画です。

 

ポレポレ東中野・第七藝術劇場ほかで公開中。

 

©ガーラフィルム/ノンデライコ

90分/日本