2018年に公開されロングラン・ヒットとなった「ぼけますから、よろしくお願いします。」の続編がいよいよ関西でも公開されます。長年連れ添われたご夫妻と、時にユーモラスな親子のやりとり。本作のお話を伺っていると、信友家の中でした母さんの存在がいかに大きかったかが見えて来ます。お母さんに寄り添うお父さん。そしてお父さんと信友監督のやりとりは、時に深刻で時にユーモラス。広島県呉市に住む90代のご両親を撮って、家族3人の軌跡を映し出した信友直子監督に伺いました。

 

(2022年 3月8日 シネ・リーブル梅田 信友直子監督)

 

【Q】この作品を観ていると、私はとにかく信友監督が、もの凄く冷静に撮影されてるのにびっくりしました。お父さんが倒れてケガをされた時のエピソード一つ取ってもそうなんですが、やっぱりジャーナリストだな、と思いながら作品を観ました。信友監督は撮影するかしないか、映画の中に描くか描かないかの基準みたいなものは、いつもどういう所においていらっしゃいますか?

 

【信友監督】 私は何かこう、“ジャーナリスト”とか、“これを伝えなきゃ”みたいなのではないんですけれど、ちょっと、自分の中で“ワクワクする”んですよね。まぁ、あの時は本当に父が、実は大したことが無い、というのがわかっていましたから。病院の人と連絡をとると、頭だから血は出たけど、縫って大したことない・・・というのを聞いたから、慌てて帰ったというわけでは無いんです。父のケガの時は、私の会った時の第一声も「なーにしよん」みたいな感じでした。母の脳梗塞の時は、慌てて帰りましたけどね。

でもちょっと、みんな面白がる家風みたいなものは、あるような気がしています。好奇心が強い家族なのかな、と。結構面白がる気風は

あって、そんな3人が集まってるから、認知症の映画だけど、そんな悲しくないというか、深刻じゃないものになっているかなと思いますね。

 

 

 

 

【Q】 そうですね。でも映画の中で、「お父さんは胃瘻はしたい?」って尋ねておられる台詞があります。あそこは大きな問いだと思いました。なかなか私たちも、ノートに一筆書いておいたりまで、踏み切れないような ことかもしれません。

【信友監督】 でも父はあの時は、 “わしゃ、しとうないの”とかって言っていますけど、本当に日によって違うんですよ、実は。なんか、“わしは胃瘻にしてでも、もうちょっと長く生きたい”という時もあるし、その時の気分によったりするんです。多分ノートに一筆書いたとしても、その後、人間って変わると思うんですよ。母がもし、元気な頃に「どうしたいか」というのを聞いてたとしたら、おそらく、「私はそんなことせんと、食べられんようになったら、死なしてちょうだい」って言うと思うけど、多分胃瘻にするかどうかって状態になったら、もうちょっと生きたい、と思うかもしれない。だから本当、わからないですよね。

 

【Q】 介護される人と養護者について、法律では養護者の心の負担軽減をはかることも大切とされていますが、実際はそこが凄く難しいことなんじゃないかと思っています。ところが信友監督は、カメラを介してお父さんといいコミュニケーションをとっておられるなあ、と。お父さんの心の負担を軽くしておられるように私は感じました。

【信友監督】 カメラがあったことで、私は救われたんですけれど、父はどうだったのかな。

カメラを持っていたから私はわりと、引きの視点が持てたので、あんまり悲観的にならずに済みました。ちょっと客観的になれたり、引いてみるとわりと、“これって笑えたりもするよね”みたいに思えたりして・・・。やっぱりカメラを持ってないと、どんどん娘として寄って行ってしまって。たとえば母が認知症で変なことするとね、娘としてだけだと辛い部分も、引いてみると笑えたりすることもありましたので、私は救われたんですけど・・・。

 

実は母が認知症になるまでは、私と父はそんなに密な親子では無かったんです。仲が悪いというわけではなかったんですが、母が凄く面白い人だったので、母とばっかり喋っていて、実家に帰っても父と殆ど口をきいてはいなかったんですよ。別に嫌いなわけじゃないんです。でも、母が面白かったから、あんまり父と話す必要性を感じなかった。存在感が無かったんです。2本目の本作には、母が元気な時に近所の商店街で買い物するシーンがありますが、母はかいがいしくいろんなことするんだけど、父はただ座って新聞とか本を読んでいたりして何もしていないんですよ(笑)。だから、今まで近所づきあいは母がやっていたのを父がやるようになったり、介護サービスの人と話すようになったり、母が認知症になって父も変わりました。

 

 

 

【Q】 信友監督に、帰って来て介護をしろと仰らないお父さんの感覚は素晴らしいですね。最先端の考え方を持っておられる、という印象を信友監督のお父さんに持ちました。

【信友監督】 今も言わないですよ。昨日、ある方の取材が来て、うちでお父さんに、“そろそろ帰った方がいいか”と聞いてみてください、と言われたので聞いてみたら、「まだええわ」と。この人、いつまで1人でやるつもりなんだ・・・って。自分で“最先端”と思っているかどうかはわからないけれど、新聞なんかは読んでいる人なんです。3紙読んでいて、何故かと言うと新聞によって伝え方が違うからだ、と。一つの見方にこだわらないで見ないとダメだ、というわけです。私もちっちゃい頃からそう言われていました。おっしゃるような最先端のものの見方は、そこから学んでいるのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

2022年製作/101分/日本/ドキュメンタリー

 

監督 信友直子

プロデューサー 濱潤 大島新 堀治樹

撮影 信友直子 南幸男 河合輝久

整音 富永憲一

編集 目見田 健

 

4/1~ シネマート心斎橋 テアトル梅田 シネ・リーブル神戸 京都シネマ

4/8 ~ 豊岡劇場