「本気のしるし〈劇場版〉」

 

2019年にメ~テレ(名古屋テレビ)等で放送され好評だった漫画原作の深夜ドラマを、劇場用に再編集した人間ドラマ。カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020に選出された深田晃司監督作で、これまでオリジナル脚本を映画化してきた深田監督が手掛ける初めての原作もの。

 

主人公は30歳の辻一路(森崎ウィン)。東京、八王子市の会社「オンダ」の営業マンで、社内で2人の女性社員、細川と藤谷にフタマタをかけて付き合っている人物。仕事熱心だが心の中では、“今の自分は本当の自分じゃない”と大きな転機が訪れるのを待っているようなところのある辻は、葉山浮世(土村芳)が踏切で車を立ち往生させている所に居合わせ、浮世の命を助ける。浮世はDV夫から逃げてきたらしいが、ことあるごとにどう見ても理性を欠いた行動をとる。浮世の背景を知るにつれ、放っておけない気持ちになり、辻は借金の肩代わりまでするが、浮世に振り回されて結局、細川との婚約を理由に彼女との縁を切ります。

 

 

辻の数奇な運命を見守る狂言回しが、浮世の債権者の脇田で、脇田はドラマの要所要所で現れて、辻と浮世の恋が本物かどうか試すような問いを投げかけます。辻は3人の女性と付き合うプレイボーイですが、浮世に対してだけは善意としかいいようの無いものを見せる。ここが本作の最も不思議な所で、深田演出の力を感じさせました。

 

ただひたすら自己評価が低くて不運を呼び込んでいた浮世は、イノセントなヒロインというよりは悪役に近いキャラクター。自己評価が低い原因は何から始まったのか、ドラマの中ではあまり深く突っ込んで描かれませんが、ラストに近いシーンの浮世の後ろ姿を見ていて、文化も含めてこの人の育ち方の中に、自己評価の低さの原因があるんじゃないかと匂わせます。

 

このドラマでよく使われる言葉が「ごめんなさい」「すみません」という言葉で、特に浮世の台詞に多いです。謝っているというよりこの言葉が出る時は、大抵自分の我を通す時。「問答無用」みたいな意味で使われる事が多い。彼女は普段は弱々しいのに、いざと言う時に自分の意思を通す人物。辻はいつも隔靴掻痒ですが、破綻の予感を漂わせながらもこの2人は歯車のように、しっかり噛み合って物語を回していく。ある意味、ヒューマンドラマの原点回帰の作品で、3時間52分を長く感じませんでした。

 

 

監督 深田晃司

脚本 三谷伸太郎 深田晃司 

原作 星里もちる

出演 森崎ウィン 土村芳 

(2020/日本/3時間52分)

10/17~第七藝術劇場、シネヌーヴォ、元町映画館 ほか順次