コロナ以前は夏に2万人以上が訪れたという、美しいリゾート地を舞台にした人間ドラマ。冒頭のシーンは恐怖に彩られています。主人公エレナはマドリードの家で、フランスのビーチに居る6歳の息子イバンからかかってきた電話を受ける。イバンが迷子になっているのに、イバンと一緒に旅行している筈の父親ラモンが、何故かそばに居ない。心細げなイバンの声。取り乱しながらも必死でイバンを助けようとするエレナ。ワンカット撮影された冒頭15分のスリリングなシーンでは、イバンが声だけの演出なので凄く怖い。これが後に続くドラマの伏線となり、物語は10年後に転ずる。10年後、エレナは息子を探しながらフランスの海辺のリゾート地で働いていた。広角で撮った海辺の映像が明るく美しすぎて、主人公の孤独の深さが際立つ。エレナはここで、息子のイバンによく似た少年ジャンと出会う。

 

 

  劇中いつも少し身を引いて、イバンを観察しているエレナの視線が印象的。イバンの口元から鼻筋にかけてのラインを、何度もアップにするカメラが、ジャンの中に息子を探しては、思い切ろうとするエレナの心理を切り取る。そんなエレナを一番冷静に見ている人物が、彼女の現在の恋人ヨセバで、エレナを心配するヨセバを狂言回しに、物語は意外な方向に展開していく。

 

真っ暗な中では白い物と黒い物の区別がつかないように、エレナは子供の失踪以来、誰を信じていいのかわからず、人間不信を抱えて生きていた人物。主人公エレナの体験を通して観客は、人間が人間に振るう暴力の残酷さを見ることになります。そして、その反対側にあるものも。

 

 

性犯罪被害に遭った人物の心理を描いたパク・ソンジュ監督のヒューマン・ドラマ「家に帰る道」、実際の事件に取材して犯罪被害者と加害者を再現ドラマとドキュメンタリーで描いた斉藤潤一監督の「おかえりただいま」、失踪した子供を探す主人公が世間の好奇心に傷ついていく姿を、エンタメ性を盛り込んで描いたキム・スンウ監督の「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」など、女性を主人公に描いた一連の犯罪被害ものの中でも、心に明かりをともすところがあるのがこの作品の良さ。アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた「Madre」をもとに制作された異色の佳編で、2時間9分の長さを感じさせません。

 

 

 

「おもかげ 悲しみの果てにたどり着けたら-」

10/23~第七藝術劇場

10/23~ 京都シネマ 

               テアトル梅田

「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」

9/18 ~シネ・リーブル梅田

9/25 ~京都シネマ

 

「おかえりただいま」

9/26~ 名古屋シネマテーク

10/2 ~ 京都シネマ

10/3 ~ 第七藝芸術劇場

 

(スペイン・フランス/2019/2時間9分)

監督・脚本 ロドリゴ・ソロゴイェン イサベル・ペーニャ

撮影  アレックス・デ・パブロ

編集  アルベルト・デル・カンポ

出演 マルタ・ニエト ジュール・ポリエ アレックス・ブレンデミュール