ブラジル南部のポルトアレグレ。78歳のエルネストはウルグアイからの移住者で、共産主義者。かつて写真家の仕事をしていたため、家の中には故郷の思い出と共に、写真がたくさん飾ってある。妻をかなり前に亡くし、眼は悪くなり孤独だったが、古くからの友人ハビエルや、週一回掃除をしてくれるクリスティナとの、なんでもない日常を楽しんでいる。息子がサンパウロで一緒に住もうと言ってくるが、住み慣れた家を離れる気持ちになれずにいた。

 

そんなある日、同じアパートの住人の家に出入りしている、ビアという名の若い女性と出会う。ビアはエルネスト宛てに来た手紙の代読と代筆の仕事をしてくれるようになる。いつもおどけた表情で、気さくだが、顔に青アザを作って現れたり、何か大きな悩みを抱えていそうだった。

 

 

 

無表情の主人公エルネストと、アルルカンのようなメイクの若いビア。ビアの、男みたいな女みたいなニュートラルな外見の裏には、おそらく、元カレのDV被害に遭いながらもサバイバルしてきた自負がある。「赤の他人を信じちゃダメだよ」「それだと、もう誰も信じられんよ」。2人は、些末なことから芸術や文学、人生観に至るまでの対話を重ねる。社会批評につながっていく台詞やシーンがあるけれど、そこはかとないユーモアがあって、暗さがみじんも無い。無名の詩人達が暗唱する叙情詩をひいて、ブラジルの黒人差別など、アイデンティティに関する問題提起をしているのも魅力的。主人公は何でもない日常を生きてきた普通の人。こういう人を描いて社会を切り取れるのが映画の力なのだナ。

 

監督 アナ・ルイーザ・アゼヴェード

脚本 アナ・ルイーザ・アゼヴェード ジョルジ・フルタード

製作 ノラ・グーラート

 

出演 ホルヘ・ボラーニ ガブリエラ・ポエステル ジュリオ・アンドラーヂ

(2019/123分/ブラジル)

 

7/31~ シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸