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1959年のイギリスを舞台にした、イザベル・コイシェ監督の人間ドラマです。イザベル・コイシェ監督の映画は、洋服の色彩がいつも内容に応じて計算されていて美しく、細部まで見逃せません。今回は夫を戦争で亡くした主人公フローレンス(エミリー・モーティマー)が、本屋が1軒も無い小さな町で本屋を開店する話です。店の経営の難しさが描かれていますが、町の人の心理がクサクサしているというか、「本どこ

 

ろじゃないんだよ」という雰囲気で、そのあたりに戦争の影が落ちています。フローレンスが1人で銀行に交渉しに行くと、担当者からは融資を渋られる。町の有力者からも冷たくあしらわれる。第二次大戦が終わって14年後の設定のせいか、「未亡人」という立場も、決してビジネスに有利になっていません。赤い

 

ドレスで町の名士が集まるパーティーに出席して宣伝しようとしますが、人目を引く作戦は見事に失敗してしまいます。つまり、最初の30分くらいで、町に住む人々の保守性や冷たさが「赤」という色で説明されるわけですが、この30分でフロレンスは観客を味方につけます。戦争の傷跡がまだ人の心に色濃く残っていて、余計に、活字がくれる豊かな時間が贅沢に、貴重に見えるのですが、売り上げには直結し

 

ません。人間の心の成長に欠かせない活字と、人間が生きていくために必須の、売り上げのきわどいバランスを描きながら、ドラマは進行します。町の人間模様は個性的な面々で描かれていて、店を手伝う女の子や、特に、フローレンスに敵対する町の有力者・ヴァイオレット役の、パトリシア・クラークソンが強烈に面白く描かれています。ヴァイオレットには主人公の敵にも味方にも見えるところがあります。いつでも

 

フローレンスのメンターになれそうで、実際エピソードの中にはそういうチャンスも描かれているのに、絶対にフローレンスを助けない。そのかわりに、これでもか、というほどフロレンスの仕事を邪魔してくるのが印象的でした。考えてみると戦争は、相手を叩き潰すために手段を選ばないことです。

 

パトリシア・クラークソン演じるヴァイオレットには、戦争につながっていく人間の暴力性みたいなものが、含みとして入っているような気がしました。ヴァイオレットは、フローレンスが書店の店舗にしようとしている「オールドハウス」を、町の芸術センターにしたいと考えていて、それ自体は間違っていないけれども、手段がどんどんいびつになってくるんです。彼女を単なる勝気な人物として描かなかったところが、イザ

 

ベル・コイシェ監督のストーリー・テリングの巧みさだと思います。レイ・ブラッドベリの「華氏451度」「火星年代記」「たんぽぽのお酒」、ウラジミール・ナボコフの「ロリータ」、チャールズ・ディケンズの「ドンビー父子」などなど、1940年代後半から50年代に出版された本が、登場人物たちをつなぐ鍵として続々登場します。今の時代との接点は活字が苦戦するところ。でも、ラストには希望が描かれています。

イザベル・コイシェ監督、復活。

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3/29~ シネ・リーブル梅田、3/30~京都シネマで。