(8/14日付け日経新聞夕刊「シネマ万華鏡」掲載の記事です。画像了承済み。シネ・リーブル梅田ほかで公開中)

【彼は秘密の女ともだち】・・・1997年からほぼ毎年のように、中身のある作品を撮り続けている監督、フランソワ・オゾンの新作だ。先ごろ亡くなったイギリスの小説家、ルース・レ

ンデルの「女ともだち」にインスパイアされて作られたもので、見応えがある。親友のローラを病気で亡くしたばかりの、クレールが主人公。ローラが死んだのは子供を産んですぐのこと。数

週間後クレールは、ローラの夫ダヴィッドを訪ね、彼の秘密を知る。実はダヴィッドは、子供の頃から女装をするのが好きな男性だ。世間体を恐れ、彼と亡き妻ローラは、そのことを伏せて来

た。人がこの世に生まれて、割り振られる社会的な役割は、必ずしも本人の欲求と一致しない。良き夫で良き父、平均的な男性、という役を振られたダヴィッドは、本当の自分の上に、何枚も

キャラクターの厚着をしている。自分を押し隠してきた彼は、非常に表面的なつき合いの中で生きて来て、孤独をなめた人物像でもある。シナリオはクレールの夫も巻き込み、不思議な三角形

を形づくる。しかし、夫にしてもクレールにしても、何かの役割を振られて、無意識にこなしているという点で、ダヴィッドと少し似ていなくもない。この映画が人物に揺らぎを描き込むとこ

ろは、ドキドキするようなユーモアに満ちている。ダヴィッドが他人に見せ始める服装の倒錯は、ローラの親友で、誠実な妻、真面目な会社員でもある主人公の役割意識にも、微妙に揺らぎ

を伝染させる。人間を一面的な存在だと思っている人は居ないだろうが、それを自然に表現できる人の数は少ない。フランソワ・オゾンは、さまざまなテーマを試して、常に目先を変えつつ進

化してきた監督だが、これまでの中で、本作が一番、彼自身の内面を色濃く映した作品ではないかという気がする。1時間47分。★★★★(ライター 岩永久美)