加茂隆康弁護士の著書『自動車保険金は出ないのがフツー』
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『ビデオ撮影の技術』
事故の状況によっては、偶然に起きたものなのに、損保側からとんでもない難くせをつけられることがあります。
「故意に事故を起こして、保険金詐欺を企んだんじゃないか。これは偽装である」と。
こんな言われ方をされますと、被害者は怒りで震えます。
車両保険の場合、かつては事故が「偶然に起きたことを被害者側で立証しなければならないとされていました。しかし最高裁は、二〇〇六年六月一日の判決以降、いくつかの判例でこの見解を逆転させました。損保側が、
「事故は被害者が保険金目当てに故意に起こしたものだ」と言いたければ、そのことを損保側で立証しなければならないとしました。これによって被害者は、駐車場にあった車がなくなったとか、水没したという外形的事実だけを証明すればよいことになりました。
こうして、最高裁は被害者の立証責任の軽減をはかったのです。
しかし最高裁がこの判例を確定するまでは、「偶然性」の立証責任が被害者側にあるとされていましたから、被害者は本当にたいへんでした。車両保険金を払いたくない損保としては、どこかに因縁をつけられそうな事実はないかと血眼になって探しました。それがみつかると、
「偶然性が疑わしい。被害者は、当時金に困っていた。保険金目当てに事故を偽装したのだ」と決めつけました。
悔しかったら「偶然性」を証明せよ、と開き直ったのです。
そのころの一例を次回の記事で紹介します。
加茂隆康弁護士の著書『自動車保険金は出ないのがフツー』
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査 終』
損保の税理士の場合は逆です。被害者の所得をできるだけ低く認定するために、税務申告の関係資料を洗いざらい出させ、文字通り重箱の隅をついて、高額と考えた申告所得の信憑性をおとしめます。そして、調査を始める前から考えていたとどめの結論を、さも調査の結果、正当に導かれたかのような口ぶりで言い放ちます。
「いやぁ、われわれも時間をかけて収支の資料を精査させていただいたのですが、事故前の年間所得が一四〇〇万円というのは、どうしても裏付けに乏しいんですよ。ですから、この際、年間の所得として、男子の平均賃金である年収五五〇万円で計算させていただくほか、手がないと思っております:
これはもう、ヤクザ並みの「因縁」です。
被害者が一年間休業すれば、休業損害は一四〇〇万円になるはずです。
それを低く抑えるために、ここでおもむろに平均賃金五五〇万円をもち出すのです。この差は実に
八五〇万円です。
損保は税理士に調査費用を払ってでも、被害者の休業損害の減額を正当化しようとしています。
しかも登場してくるのは、いつも同じ税理士です。
こういう税理士は、不払いに加担する損保の犬といっても過言ではありません。
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査 終』
損保の税理士の場合は逆です。被害者の所得をできるだけ低く認定するために、税務申告の関係資料を洗いざらい出させ、文字通り重箱の隅をついて、高額と考えた申告所得の信憑性をおとしめます。そして、調査を始める前から考えていたとどめの結論を、さも調査の結果、正当に導かれたかのような口ぶりで言い放ちます。
「いやぁ、われわれも時間をかけて収支の資料を精査させていただいたのですが、事故前の年間所得が一四〇〇万円というのは、どうしても裏付けに乏しいんですよ。ですから、この際、年間の所得として、男子の平均賃金である年収五五〇万円で計算させていただくほか、手がないと思っております:
これはもう、ヤクザ並みの「因縁」です。
被害者が一年間休業すれば、休業損害は一四〇〇万円になるはずです。
それを低く抑えるために、ここでおもむろに平均賃金五五〇万円をもち出すのです。この差は実に
八五〇万円です。
損保は税理士に調査費用を払ってでも、被害者の休業損害の減額を正当化しようとしています。
しかも登場してくるのは、いつも同じ税理士です。
こういう税理士は、不払いに加担する損保の犬といっても過言ではありません。
加茂隆康弁護士の著書『自動車保険金は出ないのがフツー』
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査 続き』
「いやぁ、いろいろと不審な点がみつかりましてねぇ。収入や経費の裏付けがとれていないんですよ」
「どういうことですか」
「どういうことって、そういうことです。確定申告書や青色申告決算書の金額と帳簿からうかがえる金額と必ずしも一致しないんです。うーん、弱ったなぁ。本当は経費がもっとかかっていて、所得は低いんじゃないでしょうかねぇ・・・・」
税理士は全く悪びれた様子がありません。
こういう税理士のやり方は国税調査官の調査ながらです。
国税調査官の場合とちがうのは、思考の方向性です。国税調査官は、納税者が脱税しているのではないかという疑いをまず抱きます。
そこで、収入の計上漏れはないか、経費の水増しはないか、ひいては所得を不当に低く申告していないか。いわれば過少申告となり、税金の追微の対象になります。よし修正申告をさせよう。そういう思惑で調査に出向きます。
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査 続き』
「いやぁ、いろいろと不審な点がみつかりましてねぇ。収入や経費の裏付けがとれていないんですよ」
「どういうことですか」
「どういうことって、そういうことです。確定申告書や青色申告決算書の金額と帳簿からうかがえる金額と必ずしも一致しないんです。うーん、弱ったなぁ。本当は経費がもっとかかっていて、所得は低いんじゃないでしょうかねぇ・・・・」
税理士は全く悪びれた様子がありません。
こういう税理士のやり方は国税調査官の調査ながらです。
国税調査官の場合とちがうのは、思考の方向性です。国税調査官は、納税者が脱税しているのではないかという疑いをまず抱きます。
そこで、収入の計上漏れはないか、経費の水増しはないか、ひいては所得を不当に低く申告していないか。いわれば過少申告となり、税金の追微の対象になります。よし修正申告をさせよう。そういう思惑で調査に出向きます。
久しぶりに加茂隆康弁護士の著書に入っていきます。
加茂隆康弁護士の著書『自動車保険金は出ないのがフツー』
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査』
損保は、専属の医師をかかえているだけではありません。
自営業者が事故の被害に遭って、長期間休業したとしましょう。
その場合、この人の年間所得が一〇〇〇万円を超えるようですと、損保はしばしば税理士を使って収支を調査します。
「**様の休業損害をきちんと算定してお支払いするために、必要な書類があります。事故前三年間の
『所得税の確定申告書』『所得の内訳書』『青色申告決済書』です。この次、お宅に訪問した際、写しをいただきたいと思いますので、ご準備いただけませんか」
このように損保側の税理士から電話があれば、善良な被害者は、自分の休業損害を払ってくれるのだろうという期待を抱くでしょう。そして、面談日に、言われた書類を用意して提出すると思います。
こうして出された書類を税理士はくまなくチェックし、さらに不足資料の提出を求めます。
「収支が分かる会計帳簿や伝票類を過去にさかのぼって三年分、出してくれませんか。それと、入出金を確認するため、預金帳簿を見せていただきたいんですが。これもやはり三年分」
そんなことを言われますと、ダンボールの中にしまっておいた過去の帳簿類をひっかき回してみつけるか、自分の税理士に連絡して、用意してもらうほかはなくなります。さんざん資料を出させた以上、今度こそ休業損害を払ってくれるのかと思いきや、梨のつぶてです。
損保側の税理士に電話しますと、相手はこう言います。
続く
加茂隆康弁護士の著書『自動車保険金は出ないのがフツー』
第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略
弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」
『国税調査官並みの税理士の調査』
損保は、専属の医師をかかえているだけではありません。
自営業者が事故の被害に遭って、長期間休業したとしましょう。
その場合、この人の年間所得が一〇〇〇万円を超えるようですと、損保はしばしば税理士を使って収支を調査します。
「**様の休業損害をきちんと算定してお支払いするために、必要な書類があります。事故前三年間の
『所得税の確定申告書』『所得の内訳書』『青色申告決済書』です。この次、お宅に訪問した際、写しをいただきたいと思いますので、ご準備いただけませんか」
このように損保側の税理士から電話があれば、善良な被害者は、自分の休業損害を払ってくれるのだろうという期待を抱くでしょう。そして、面談日に、言われた書類を用意して提出すると思います。
こうして出された書類を税理士はくまなくチェックし、さらに不足資料の提出を求めます。
「収支が分かる会計帳簿や伝票類を過去にさかのぼって三年分、出してくれませんか。それと、入出金を確認するため、預金帳簿を見せていただきたいんですが。これもやはり三年分」
そんなことを言われますと、ダンボールの中にしまっておいた過去の帳簿類をひっかき回してみつけるか、自分の税理士に連絡して、用意してもらうほかはなくなります。さんざん資料を出させた以上、今度こそ休業損害を払ってくれるのかと思いきや、梨のつぶてです。
損保側の税理士に電話しますと、相手はこう言います。
続く
加茂隆康弁護士のコラム、「替え玉」
替え玉 (6/6)
― 弁護士解任 ―
座間味の豹変とN損保の支払拒絶、横浜地検の捜査状況などを私は沼さんに説明しました。沼さんはあきれつつも、訴訟しか方法がないことをわかってくれました。
「あとは先生にお任せしたい」といいます。
翌日、訴状の作成にとりかかっていたところ、沼さんの奥さんから電話が入りました。奥さんが電話をしてくるのははじめてのことです。いやな予感が走りました。
いったいどうしてこんなことになったのか、とお尋ねですので、「加害者の座間味がこれまでの供述を一変させたんです」といいました。
「座間味という男はよほど悪辣な人間なのでしょう。いまごろになって替え玉だったなんていいだしたのですから」
「加害者がそういうとんでもないことをいいだしたとしても、そこをなんとかするのが弁護士さんの役目じゃないですか」
「ええ、ですからこのうえは裁判を起こして黒白をはっきりさせるのがよいとご主人には申し上げたのです。情況証拠がそろっていますから、たぶん勝てると思います。判決で座間味が加害者に間違いないということになれば、N損保も払うでしょうから」
「いえ、そうじゃなくて裁判なんてめんどくさいでしょ。先生が座間味を説得して自分がやったと認めさせればそれですむっていいたいんですよ。それが弁護士さんの仕事ではないですか」
「は? 私は沼さんの代理人であって座間味の代理人ではないんですよ。座間味は敵対する相手方なんです。検事の前ですら、シラをきろうとしている男をどうやって説得しろとおっしゃるんでしょうか」
「そんなことは知りません。それは先生が考えることであって、私たちが考えることじゃありませんから」
「弁護士は検事や裁判官のように権力を持ってはいないのですから、裁判を起こして座間味が加害者だと認定してもらう以外、手はないのです。あまりにもひどい相手にぶつけられた。相手が悪すぎたとご理解いただきたいんですが」
「その悪すぎた相手をどうにかするのが弁護士さんの役目だといってるんです。裁判なんかにしないで」
「奥さん、弁護士にもできることとできないことがあります。N損保は一切払わないといってるわけですし、前言をひるがえすような奴を相手にするには、もう残された道は訴訟しかないんです」
「あっ、そう。じゃちょっと考えさせて下さい」
そのまま電話を切られました。
奥さんのいうのは無茶苦茶です。夫の弁護士を仲介役と誤解しているふしがあります。座間味を拷問にでもかければ別でしょうが、私にはそんなことできるわけがありません。
30分ほどして沼さん自身から電話が入ります。
「実は、女房が知りあいの別の弁護士に頼みたいといっていましてねぇ。私は先生にお願いする方がいいっていったんですが、女房がきかないんです。……すいませんが、代理人を降りていただけませんか」
ああなるほど、そうくるのか、と思いました。彼はどちらかといえば気の弱そうな人のいいタクシードライバーです。それにひきかえ奥さんの方は、負けるもんかという姿勢を露骨にだしてこっちを責めたててきます。家庭内での食卓をはさんだ彼と奥さんの力関係まで見えるようでした。
夫が敷いたレールを妻がぶちこわす。夫が妻をおさえればいいものを、それができない。男が情けなくなったのか女が強くなりすぎたのか。
こんな理不尽なことをいう奥さんが沼さんの背後にいるかと思うと、こちらとしてもやる気を失います。訴訟を起こしたとしても、その過程で奥さんにいろいろ誤った横槍を入れられてはたまらないからです。「降りてくれ」といわれるまでもなく、降りたい気分になります。
参考までに奥さんが頼みたいといっている弁護士のことをたずねてみました。沼さんの話では、奥さんが勤める魚介類加工会社の顧問弁護士だそうです。あとで調べてみますと、その人の専門は不動産と書いてありました。交通事故の分野では、まったく名前を聞いたことがない方です。おそらく交通事故はあまり扱ったことがないでしょう。
数日後、沼さんから私あてに解任状が届きました。
彼がこのあとどうなったか、座間味が有罪になったかどうか、私は確認していません。
でも私は確信しています。座間味のいうようなみえすいた嘘が通用するほど、日本の刑事司法は甘くはないと。
替え玉 (6/6)
― 弁護士解任 ―
座間味の豹変とN損保の支払拒絶、横浜地検の捜査状況などを私は沼さんに説明しました。沼さんはあきれつつも、訴訟しか方法がないことをわかってくれました。
「あとは先生にお任せしたい」といいます。
翌日、訴状の作成にとりかかっていたところ、沼さんの奥さんから電話が入りました。奥さんが電話をしてくるのははじめてのことです。いやな予感が走りました。
いったいどうしてこんなことになったのか、とお尋ねですので、「加害者の座間味がこれまでの供述を一変させたんです」といいました。
「座間味という男はよほど悪辣な人間なのでしょう。いまごろになって替え玉だったなんていいだしたのですから」
「加害者がそういうとんでもないことをいいだしたとしても、そこをなんとかするのが弁護士さんの役目じゃないですか」
「ええ、ですからこのうえは裁判を起こして黒白をはっきりさせるのがよいとご主人には申し上げたのです。情況証拠がそろっていますから、たぶん勝てると思います。判決で座間味が加害者に間違いないということになれば、N損保も払うでしょうから」
「いえ、そうじゃなくて裁判なんてめんどくさいでしょ。先生が座間味を説得して自分がやったと認めさせればそれですむっていいたいんですよ。それが弁護士さんの仕事ではないですか」
「は? 私は沼さんの代理人であって座間味の代理人ではないんですよ。座間味は敵対する相手方なんです。検事の前ですら、シラをきろうとしている男をどうやって説得しろとおっしゃるんでしょうか」
「そんなことは知りません。それは先生が考えることであって、私たちが考えることじゃありませんから」
「弁護士は検事や裁判官のように権力を持ってはいないのですから、裁判を起こして座間味が加害者だと認定してもらう以外、手はないのです。あまりにもひどい相手にぶつけられた。相手が悪すぎたとご理解いただきたいんですが」
「その悪すぎた相手をどうにかするのが弁護士さんの役目だといってるんです。裁判なんかにしないで」
「奥さん、弁護士にもできることとできないことがあります。N損保は一切払わないといってるわけですし、前言をひるがえすような奴を相手にするには、もう残された道は訴訟しかないんです」
「あっ、そう。じゃちょっと考えさせて下さい」
そのまま電話を切られました。
奥さんのいうのは無茶苦茶です。夫の弁護士を仲介役と誤解しているふしがあります。座間味を拷問にでもかければ別でしょうが、私にはそんなことできるわけがありません。
30分ほどして沼さん自身から電話が入ります。
「実は、女房が知りあいの別の弁護士に頼みたいといっていましてねぇ。私は先生にお願いする方がいいっていったんですが、女房がきかないんです。……すいませんが、代理人を降りていただけませんか」
ああなるほど、そうくるのか、と思いました。彼はどちらかといえば気の弱そうな人のいいタクシードライバーです。それにひきかえ奥さんの方は、負けるもんかという姿勢を露骨にだしてこっちを責めたててきます。家庭内での食卓をはさんだ彼と奥さんの力関係まで見えるようでした。
夫が敷いたレールを妻がぶちこわす。夫が妻をおさえればいいものを、それができない。男が情けなくなったのか女が強くなりすぎたのか。
こんな理不尽なことをいう奥さんが沼さんの背後にいるかと思うと、こちらとしてもやる気を失います。訴訟を起こしたとしても、その過程で奥さんにいろいろ誤った横槍を入れられてはたまらないからです。「降りてくれ」といわれるまでもなく、降りたい気分になります。
参考までに奥さんが頼みたいといっている弁護士のことをたずねてみました。沼さんの話では、奥さんが勤める魚介類加工会社の顧問弁護士だそうです。あとで調べてみますと、その人の専門は不動産と書いてありました。交通事故の分野では、まったく名前を聞いたことがない方です。おそらく交通事故はあまり扱ったことがないでしょう。
数日後、沼さんから私あてに解任状が届きました。
彼がこのあとどうなったか、座間味が有罪になったかどうか、私は確認していません。
でも私は確信しています。座間味のいうようなみえすいた嘘が通用するほど、日本の刑事司法は甘くはないと。