1970〜80年代は本当に歌謡番組花盛りだった。何度かお話ししたように、数多ある歌謡番組の宏美さん登場シーンを、留守を守る弟が録画してくれていた。たまに帰省した折りに弟が録画しておいてくれた宏美ビデオを見るのが私の何よりの楽しみだった。また弟は弟で、私が見逃したり知らなかったりした番組を録画しておいたものを、私が喜んで見るのが嬉しかったようだ。

 

 宏美さんがまだアイドル的な認知をされていた80年代初頭までは、多くの番組に出演しても、通常歌うのは持ち歌1曲だけだった。なので、私としてはミュージックフェア、レッツゴーヤングなど、シングル曲以外を歌うことの多い番組は特に楽しみにしていたのである。

 

 そんな番組の一つが、タモリさんの『今夜は最高!』である。バラエティ番組ではあるが、歌のコーナーが大変充実していたのだ。宏美さんがパートナーゲストで登場した2回(1984年1月頃)のメインゲストは、寺田農さんと中井貴一さん。寺田さんの出演された回については、「ONE DAY IN YOUR LIFE」のブログで触れたので、そちらをご参照いただきたい。

 

 中井さんが出演された回では、タモさんと中井さんと3人で「Money Money」、その後『スタンダード・メドレー』と題して3曲が披露された。中井さんのボーカルとタモさんのトランペットをフィーチュアして「ボディ&ソウル(Body And Soul)」、宏美さんとタモさんのデュエットで「月光のいたずら(What A Little Moonlight Can Do)」、最後に宏美さんのボーカルと再びタモさんのトランペットで「柳よ泣いておくれ(Willow Weep For Me)」である。

 

 今日は宏美さんが歌われた曲のうち、「What A Little Moonlight Can Do」についてお話ししたい。というのも、当時私もぶったまげたが、とにかくこの曲のスキャット部分が、音域も広いが超絶技巧なのである。まず間違いなくアドリブではなく書き譜だとは思うが、それにしても凄まじい。

 

 「What A Little Moonlight Can Do」は、1934年にハリー・マクレガー・ウッズによって書かれたポピュラーソング。同年のコメディー映画『Road House』の中で、ヴァイオレット・ロレーンによって歌われている。内容的には「あぁ、月の光は何てことをするんでしょう。恋をしているあなたは言葉がのどにつかえてしまって “I love you” なんて言えない」と言ったところか。ドイツの著名なジャズ評論家のヨアヒム・E・ベーレントは、この曲を「安っぽくとるにたりぬ小唄」と断じ酷評したそうだ。

 

 しかし、翌1935年にビリー・ホリデイが、テディ・ウィルソン楽団の伴奏でこの曲を吹き込むと、この曲は大ヒットし、ビリーのジャズ・シンガーとしての名声を揺るぎのないものとした。テディ・ウィルソンのピアノ、ベニー・グッドマンのクラリネットに乗せて軽快にスウィングするこの曲は、後にいわゆる「スウィング・ジャズ」の先駆的な演奏だと評されることとなった。ご紹介しておこう。

 

 

 宏美バージョンに話を戻す。1990年代に宏美さんが「笑っていいとも!」に出演された際、この曲の思い出話が出て、「お仕置きみたいな曲でしたよね」と言われていたのも覚えている。この「いいとも!」に続けて、「今夜は最高!」の歌唱部分がアップされている。もう何も言葉は要りません。宏美さんのアクロバティックな歌唱をどうぞご堪能ください。😍

 

 

 また、この曲の放映回の「今夜は最高!」の全編の動画も上がっている。中井さんが弁慶、宏美さんが義経役の『勧進帳』、当時ヒットしたTVドラマ『スチュワーデス物語』のパロディ『エレベーターガール物語』も懐かしい。よろしければどうぞ❣️

 

 

 

(1984年 『今夜は最高!」歌唱曲)