テノール歌手・秋川雅史さんのアルバム『威風堂々』(2005)から翌年シングルカットされ、ミリオンセラーとなった楽曲。この曲の成立については、少し紙数を割きたい(Wikipedia等より)。

 

 「千の風になって」は元々アメリカで話題になった詩『Do not stand at my grave and weep』である。日本語のタイトルは、原詩の3行目『I am a thousand winds that blow』の邦訳から付けられた。 2001年、多くの肩書を持つ著作家・新井満さんが、妻を亡くした友人のために日本語に訳し、曲も付けた。自ら歌い、CDに録音して知人に配ったところ、評判を呼んだ。2003年朝日新聞の『天声人語』に取り上げられてからこの曲の運命が決した。秋川さんの他にも、加藤登紀子さん、スーザン・オズボーンやウィーン少年合唱団ら多くのアーティストにカバーされるようになった。

 

 原詩は、“weep/sleep”、“blow/snow”、“grain/rain”と、見事に2行ずつ韻を踏んでゆく。原詩の作者は不詳となっているが、訳者・作曲者の新井さんは、アメリカの主婦メアリー・フライ説を支持していると言う。メアリーさんが著作権を放棄しているなど、若干の議論があるようだが、ここではこのくらいに留めておく。

 

 またメロディーについては、イタリアの音楽グループ、ダニエル・センタクルツ・アンサンブルによるインストルメンタル「哀しみのソレアード」に似ている、という指摘もある。ポール・モーリアの演奏でどうぞ。

 

 

 内容については今更触れるまでもないであろう。「会いたい」のブログの時にも書いたが、亡くなった方のことを真正面から取り上げる歌は、どうも私は苦手である。しかし、これだけ多くの人に支持されたのであるから、やはり名曲・名唱と言って良いだろう。やはり秋川さんの歌で聴いていただきたい。

 

 

 宏美さんは、2008年の『Dear Friends Ⅳ』でこの曲に挑戦している。ライナーノーツでは、ご自身の声質の変化に触れておられるが、この歌の内容等については言及されていない。

 

 宏美盤の編曲は青柳誠さん。ピアノ、チェロそしてオーボエの3人だけのバックで、セミクラシカルなアレンジである。イントロは空を吹きわたる風のような青柳さんピアノで始まる。宏美さんのお声をゆっくり聴かせるよう、1コーラス目はそのままピアノ一本のモノトーンなイメージ。2コーラス目はチェロ(柏木広樹)、オーボエ(柴山洋)が加わって来て、コード進行もだいぶいじってカラフルになる。恰も光、雪、鳥、星に変化して「あなたを見守る」ように。この辺りは青柳さんの本領発揮である。

 

 その後のやや長めの間奏では、途中テンポフリーになりトリオの演奏をじっくりと聴かせる。3コーラス目に入ると、バックは重厚さを増してゆく。そしてラストの「♪ あの 大きな空を/吹きわたっています」の繰り返し部分がピアノ一本で音数も減り、フェルマータを伴って感動的なフィナーレを演出するのだ。宏美さんの万感を込めたお声が心に沁みる。

 

 

(2008.10.22 アルバム『Dear Friends Ⅳ』収録)