「案山子」は、さだまさしさんがソロになってから4枚目のシングル(1977)。さださんの代表曲に数えられる。故郷を離れ一人暮らしをする弟と、老いの始まった母の双方を気遣う兄の心情を歌う、という珍しいシチュエーションの歌である。内容は、さださんの実体験に基づいていると言う(Wikipediaより)。当時流行歌はあまり聞いていなかった私だが、この歌は耳にした記憶があり、とても印象に残っている。

 

 私がこの歌を聴く時、いつの頃からか何となく頭に浮かんでいる映像がある。それは日本の国民的ドラマと言われた『北の国から』(脚本:倉本聰)で映し出される北海道の大地の映像なのだ。実際にさださんが見たのは、大分から福岡への移動中の景色だそうだ。そう聞いても、一度そういうイメージができてしまうと、もう修正ができない。皆様、そういうこと、ありませんか?

 

 

 何故そのようなイメージができたのか考えてみた。まず歌詞。「♪ この町を綿菓子に 染め抜いた雪」という雪景色のイメージ。また「♪ 山の麓 煙吐いて 列車が走る」という部分と、列車の走行音を思わせるドラムのリズム(編曲:渡辺俊幸)に、螢(中嶋朋子)が列車で走り去る母・令子(いしだあゆみ)を河原を走りながら涙で見送る名場面がフラッシュバックするのだ。加えて、純(吉岡秀隆)と螢の兄妹愛、やがて故郷を離れて暮らす二人、それを厳しくも温かく見守る父・五郎(田中邦衛)。そして何より、『北の国から』のテーマの「遙かなる大地より」のさださんの声のイメージが大きいのかも知れない。

 

 「♪『金頼む』の一言でもいい」では、『’87 初恋』で、上京する純に、五郎から頼まれた長距離トラックの運転手(古尾谷雅人)が、「ピン札に泥がついてる。俺は受け取れん」と五郎から渡されたお礼の2万円を純に返し、純が号泣するラストシーンを思い出してしまう。「♪ お前も都会の雪景色の中で/丁度 あの案山子の様に/寂しい思いしてはいないか」では、『’89 帰郷』で、都会に出て遅れを取り戻そうと、髪を染めたりバイクに乗ったりして足掻く純の姿を思い出す。

 

 

 とにかく、このように『北の国から』とイメージが被りまくるくらい、家族愛の温かいイメージの膨らむ曲「案山子」。これを宏美さんは『Dear Friends Ⅵ さだまさしトリビュート』において、坂本昌之さんのピアノ一本で吹き込んだ。

 

 ピアノだけの伴奏なので、宏美さんの声のトーンがもろに涙腺を刺激する。この曲は何度もコンサートやライブで聴いているのだが、その度に涙が溢れてしまう。兄の言葉で綴られているはずの詞が、宏美さんの声で聴くとどうしても「おふくろ」の気持ちそのままに聞こえてしまうのだ。この曲のクライマックスである最高音部の「♪ おふくろに聴かせてやってくれ」がたまらない。

 

 

 ライナーノーツでも、宏美さんは短く「今年から次男が大学生になります。彼にとっては初めての一人暮らし。ことさらこういう歌が、胸にしみます」とだけ書かれている。

 

 私も大学生の4年間、親元を離れて暮らした。自分の子どもたちが大学生になった今この歌を聴くと、あの頃の自分の気持ちではなく、親の気持ちが痛いほど解り、涙が止まらないのである。

 

(2012.5.23 アルバム『Dear Friends Ⅵ さだまさしトリビュート』収録)