24thオリジナル・アルバム『Shower of Love』に収められている角松敏生プロデュース作品。このアルバムは超一流ミュージシャンたちが集結、ハイレベルな楽曲揃いである。この「(I Look)IN YOUR EYES」は、作詞・作曲・編曲全て角松さん。それに止まらずギター、キーボード、バッキング・ボーカル、コンピュータ・プログラミングに至るまでご自身でなさっている。

 

 角松さんは、杏里さんや中山美穂さんらへの楽曲提供、「WAになっておどろう」のプロデュース等で知られる。このアルバムで、すぐ次に入っている「時の向こうがわ」も角松作品。唐突に感じる転調、緻密に計算され尽くしたコーラスワーク等もこの2曲に共通だ。

 

 「叶わぬ恋」というワードが出てくるので、二人の恋は不倫関係だろうか。それなのに「♪ いつからこんなにも愛してたの/覚えてない」と、後戻りが難しいくらいに相手を愛してしまった。だが、引き際は心得ているという訳か。最後の「♪ 想い続けていたい そしていつか/消えてゆくから」が哀しい。

 

 歌詞の内容に比して、曲は軽めのポップ。だが完成度はエグい(もちろん若者の使う良い意味で)。サビから転調し、高音部分でファルセットも用いられる。だが、ギリギリ30代の録音ということで、宏美さんのお声も若々しくパワフルな躍動感がある。特に好きなのが新しいメロディーが出てくる「♪ 遠い街の音が/夜の深さ教えてくれる〜 」の部分で、角松さんご本人も加わってのハーモニーの厚みがハンパない。沼澤尚さんのドラムス、春名正治さんのソプラノサックスも冴える。

 

 

 限りなくそれまでの「岩崎宏美」らしくないこの2曲、私は新しい宏美さんの魅力が感じられ、大歓迎だった。😍きのぴいさんのブログによると、宏美さんご自身も、角松作品を大いに気に入り、選曲の時に「歌いたい」と言われた「時計」という曲がある。結局角松さんご本人が歌うことになり、このアルバムには収録されなかったということだが、YouTubeを貼っておく。聴くほどに宏美バージョンも聴いてみたくなる。

 

 

 「時の向こうがわ」のブログにも少し書いたが、私は何故かこのアルバムの角松作品を聴くと、当時赴任していたインドネシア時代の仕事や同僚のことをよく思い出す。さんざん車中でも流していたのであろう、この曲を聴いていると通勤路の道中のジャカルタの街並みが頭に浮かぶ。

 

 当時、同じマンションに住んでいた仲の良い同僚で、娘も同い年だったSさんという人がいた。彼はカメラが趣味で、ジャカルタの街並みや市場、人々や食べ物など、日常の何気ない写真をたくさん撮っていた。98年5月のジャカルタ大暴動の爪痕や、99年10月の大統領選の混乱などもカメラに収めていた。まだデジタルカメラではなかったので、いちいち街のDPE屋で現像しては見せてくれたものだ。今思うと貴重な当時のジャカルタの資料である。

 

 私の手元に残っている写真はというと、旅行の写真や娘との家族写真ばかりで、今見直すと日常のジャカルタの街の様子を思い出すよすがとなるような写真がほとんどないのだ。あの時代にスマホがあったらなぁ、と思わずにはいられない。今は僅かに、この『Shower of Love』の角松作品を聴くと、決まってバックに流れる映像のように、私の記憶にあるジャカルタの街並みが繰り返されるのみなのだ。

 

(1997.10.22 アルバム『Shower of Love』収録)