第15回ヤマハポピュラーソングコンテスト(1978)で入賞した、柴田まゆみさんの珠玉の名曲。同じ回の入賞者の中には、長渕剛さんの名も見える。柴田さんはその年にデビューしたが、この1曲だけで引退してしまう。

 

 だが、まさに記録(オリコン最高位23位)より記憶に残る名曲とはこのこと。ポプコンファン以外からも根強い人気のある曲だ。昨年臼井孝さんの番組で、岩崎宏美限定ベストテンを特集した際にも、何と宏美さんの名だたるオリジナルのヒット曲を抑えてトップ30入り。臼井さんの解説によれば、柴田さんのオリジナルが配信サービスになかったため、宏美さんのカバーバージョンのダウンロードが伸びているのではないか、とのことだった。

 

 私は恥ずかしながら、リアルタイムではこの曲を知らなかった。1990年頃、通信販売で買った『フォーク&ポップス大全集』という16枚組のCDに入っていて、柴田さんの少し鼻にかかった声や高音の独特の発声、そしてこの曲の魅力に初めて注目したのだ。

 

 この「白いページの中に」は、昨年11月に公開された映画『ホテルローヤル』で、Leolaさんによるカバーが主題歌に使用されたことで、柴田さんご自身が再び脚光を浴びた。その時の記事をご紹介しておこう。

 

 

 内容は別れの歌なのだが、歌詞に上質な言葉のセレクトがなされていると感じる。タイトルにもなっている「♪ 白いページの中に」もそうだし、曲調と相俟って「♪ 長い長い坂道を 今登ってゆく」の部分は、宏美さんも書かれていたが、映像が目に前に浮かぶような秀逸な歌詞であると思う。

 

 

 宏美さんはこの曲を『Dear Friends Ⅱ』のラストに持って来た。『Dear Friends』シリーズの1枚目、3枚目それぞれのラストが「見上げてごらん夜の星を」「つばさ」であったことを持ち出すまでもなく、これは破格の扱いであろう。キーは柴田さんと同じAメジャー。アレンジは岩本正樹さんである。岩本さんのピアノとストリングスのアコースティックな編成で聴かせる。

 

 オリジナルと共通の部分になるが、メロディーラインやアレンジが効果的だと思う箇所を2つ挙げよう。説明を容易にするため、構成に触れよう。

 

A:いつの間にか私は 愛の行方さえも〜

A’:振り向けば やすらぎがあって〜

B:長い長い坂道を 今登ってゆく

C:好きだった海のささやきが〜

C’:よみがえる午後の やすらぎも〜

 

A:優しいはずの声が 悲しい糸をひいて〜

A’:色あせてゆくものに〜

B:長い長い坂道を 今登ってゆく

C:好きだった海のささやきが〜

C:よみがえる午後の やすらぎも〜

 

C:好きだった海のささやきが〜

C’:よみがえる午後の やすらぎも〜

 

 まず一つはA’後半、「♪ サヨナラの時の中で やっと気付くなんてー」の最後の伸ばす音で上がる部分は、ドミナントコードにオーギュメントを活用し、Bパートの「♪ 長い長い坂道を〜」の最初のトニックへの移行をよりスムーズにしていると言える(下記リンク参照)。

 

 

 もう一つ。1コーラス目の最後のC’のパートはトニック(A)のコードで主音で完全終始する。が、2コーラス目の最後はCパートが繰り返され、完全に終始しない(メロディーは第3音、コードはA〜A7)。構成をご覧いただいた通り、ハーフの部分を含めると、解決しないCパートを3度繰り返して引っ張り、最後のC’のパートで「♪ 白いページの中に」がようやく完全に終始し、聴くものが安らぐようにできているのである。

 

 ボーカルは、宏美さんらしい自然に情景が浮かぶリリカルな歌唱でわれわれの心を捉える。サビの高音部分は、ファルセットへのスムーズな切り替えが耳に心地よい。

 

 

 昭和の名曲が、宏美さんの名唱によって、また一つ甦った。

 

(2003.11.23 アルバム『Dear Friends Ⅱ』収録)