『きょうだい』のラスト前に収められている、限りない広がりを感じさせるバラードである。作詞はもちろん岩谷時子先生、作編曲は樋口康雄さん。胎教・育児3部作のコンビだ。

 

 このシリーズ3作目の『きょうだい』は、収録曲中カバーものは「おとな」1曲のみである。オリジナル・アルバムと言っても差し支えないほどで、3部作の完結編でありながら、宏美さんの大人な上質のポップスが聴けるアルバムである。

 

 そしてこの「街はバラード」。後に「この愛を未来へ」を1曲残しながら、この3部作を締め括っているように感じる、大きな楽曲だ。初めて聴いた時から、まるで映画のシーンを観ているような錯覚に捉われた。とても視覚的な作品と言えるのではないか。

 

 白い鳩、青い空、赤い風船玉、と色鮮やかな色彩も眼の前に浮かぶ。恰もカメラがさまざまな日常の風景を淡々と映し出しているようで、感じ方はあくまで観ている(聴いている)われわれに委ねられるのだ。

 

 そんな岩谷先生の詞にピッタリのメロディーとオーケストレーションである。宏美さんのお声も全般に柔らく温かい。中でも、Aメロに出てくる「♪ ピカーソの絵のようだ」とか「♪ 肩よせあいー口づけして」の太字にした高音部分に抜ける宏美さんの歌声が、涙が出るほど優しい。

 

 Bパートの「♪ 子猫が見ていた 捨てられたバラを〜」からは、ブレスするたびに転調して色合いが変化してゆく出色のサビである。そして「♪ 人に踏まれてしまうよ」の低い音から階段を上っていくような最も盛り上がる部分は、フォルテかつ地声で歌い切っている。

 

 この歌は、ずっと眼に入る風景を切り取って並べてきた。だが、最後のAパートが回帰するワンパラグラフだけ、主人公の意思がハッキリと現れているのである。

 

♪ 古い靴をはいて 街から又街へ

 歩いてたら幸せにも いつか会えるだろ

 

 そしてこの部分から、私は岩谷先生の宏美さんの復帰に対する秘めた熱い想いも感じるのだ。「古い靴」とは履き慣れた靴、宏美さんにとって長らく慣れ親しんだ歌の世界、などと考えるのは穿ち過ぎだろうか。

 

 「展覧会の絵」を引用し、効果音も用い、さらにベースランニングが始まりジャズっぽくピアノなどが奏される破格に長い(1分20秒にも及ぶ)後奏は、何を意味していたのだろう。この歌の主人公の旅立ちが、長く険しい道のりになることを暗示していたのではないだろうか。

 

 

(1992.6.21 アルバム『きょうだい』収録)