秋も深まり、北の地方からは雪の便りも届くようになってきた。宏美ファンで、同じ県内にいたので、よく一緒に走ったり飲んだりしていた仲間が、早期退職して札幌に行ってしまった。もっとも彼は、元々北海道出身であるのだが。彼からSNSを通じて積雪の写真(11日)が送られてきた。

 

 

 ということで、今日は『ALBUM』から「雪の降る町を」について書いてみたい。作詞:内村直也、作編曲:中田喜直。曲のルーツは、1951年NHKラジオの連続放送劇『えり子とともに』の挿入歌とのこと。「雪の降るまちを」という表記だったようだ。高英男さんによって吹き込まれてヒットした。その後NHK『みんなのうた』でも取り上げられている。

 

 何の番組だったか定かではないのだが、小学生の頃この歌が放映されているのを姉と見た。おぼろげな記憶では、男声バックコーラスが行進曲風にブンブン唸っていたのがコミカルに感じられ、大真面目に歌う主旋律とのミスマッチ感に、「変な歌」と大笑いした記憶がある。

 

 次なる記憶は、中学校1〜2年頃。当時ショパンに傾倒していた私は、次々とショパンのレコードを集めていた。ダニエル・バレンボイムの録音だったと思うが、「幻想曲 ヘ短調 作品49」を初めて聴いた。ゆっくりとした葬送行進曲風の主題は、「雪の降る町を」の歌い出しの「♪ 雪の降る町を/雪の降る町を〜」の2回目のメロディー・リズムと全く同一なのである。これは子ども心にも「真似したな」と思った(引用、とか盗作、と言った言葉は当時浮かばなかった)。ショパンと同じポーランド出身のツィメルマンの演奏で聴いていただこう。始まってすぐ、3小節目である。

 

 

 今回このブログを書くに当たって、Wikipediaを調べてみた。当然と言えば当然だが、このショパンの「幻想曲」との類似についても触れられていた。作曲者の中田喜直先生は、引用については生前否定されていた、と言う。たくさんの音楽を聴いたものが身体の中に残っていて、曲作りの際に無意識にそれと類似してしまう、ということはもちろんあると思う。また、知らない曲でも偶然似てしまう、ということも。ただ、中田先生がショパンの「幻想曲」を知らなかった、ということはあり得ないだろう。

 

 そして、大学生になって。宏美さんの歌う「雪の降る町を」に出会い、初めてこの曲自体にキチンと向き合った気がする。歌詞にはどこにも時間帯を表す表現はないが、私のイメージはどうしても夜なのである。説明はできないが、この曲調のせいだろうか。

 

 元々のLPではB面の最初に配置され、イントロなし、ギター一本で語るように歌い出される。偶然だがショパンの「幻想曲」と同じヘ短調である。

 

 「♪ 遠いくにから 落ちてくる」で同主調のヘ長調に転調する。だが明るくなり切れず、悲しみ、むなしさといった言葉が虚ろに響く。曲も長調と短調の間を揺らぐのを、宏美さんが抑制の効いたボーカルで微妙に表現する。

 

 3番に入ると、ストリングスが加わり、ようやくバックの演奏に厚みが増す。感情が溢れ出るような「♪ 誰も分らぬ わが心」の部分の宏美さんの歌い方、大好きである。また、各コーラス最後の音の、上のCの音で明るい余韻を残すところもさすがである。

 

 

 私は、この「雪の降る町を」という歌の本当の素晴らしさを、宏美さんの歌唱によって初めて知らされた気がする。

 

 今年の冬は関東にも雪が降るだろうか。

 

(1978.10.25 アルバム『ALBUM』収録)