1980年、私が初めて参加した思い出深い秋のリサイタルの、Ⅰ部最後に歌われた曲である。イタリアの歌手で作曲家のドメニコ・モドゥーニョの1966年の作品、「Dio Come Ti Amo」だ。訳詞は音羽たかしさん。オリジナルやカバーについては、眞峯隆義氏の『岩崎宏美論』に詳しいのでそちらに譲るとして、宏美さんは西城秀樹さんが歌っているのを聴いて覚えた、とライナーノーツに書かれている。ジリオラ・チンクェッティのバージョンをどうぞ。

 

 

 宏美さんの秋のリサイタルは、オリジナル、内外のポップスにとどまらず、時にこのようなスケールの大きなカンツォーネやシャンソンなども意欲的に取り上げ、まさにリサイタルの名に恥じない素晴らしいものだった。特にこの年のこの曲は、第Ⅰ部を締め括るにふさわしい、鳥肌ものの絶唱と言い切って良いだろう。

 

 

 トロンボーンのイントロの後、verseのような「♪ 雲が流れる空を〜」という導入部が、語るように始まる。そして「♪ Dio, come ti amo ! このしあわせを〜」のところからインテンポになって曲が流れ出す。宏美さんの抑制の効いた、しかし説得力のある歌唱である。再び同じメロディー、歌詞が回帰した後、「♪ つばめのように 自由に空を〜」と、新たなメロディーが登場する辺りから徐々に盛り上がる。「♪ それが愛なの?/流れのように 自由に海へ/それが恋か?」は poco a poco accelerando(少しずつだんだん速く)で、この部分は宏美さんの伸びやかな歌声&宏美節全開、何度聴いても超快感である。「♪ それが恋か?」で絶頂を迎え、音楽が一旦止まる。囁くようなキメの「♪ Dio, come ti amo ! 」の声が沁み渡ったところで、バックの演奏がフルバンドで劇的に鳴り出すのだ。

 

 能書きはこれくらいにして、YouTubeをご覧いただこう。まずは、1983年2月の『45回転で抱きしめて』の貴重な映像である。宏美さんが喉を傷めている時期ではあるが、素晴らしい歌唱ぶりをご堪能いただけるものと思う。

 

 

 この映像の他にもう一度、宏美さんがこの「Dio Come Ti Amo」をテレビで歌ったのを見たことがある。1981年1月放映のNHK『魅惑のファンタジー』である。ビデオも録ってあったのだが、現在は見ることができなくなってしまった。ところがなんと、以下のWebページに、宏美さんご自身がビデオテープを提供したとのことで、この回の紹介が載っているのだ。懐かしいカットがいくつか出ているので、是非ご覧いただきたい。

 

 

 この時の「Dio Come Ti Amo」は、リサイタル後間もない時期に収録されたものと思われる。歌い慣れたせいか、リサイタルの時よりもさらに吹っ切れてパワーアップしたような歌い方である。また、アッチェレランドもパイナップル・カンパニーの演奏よりさらに巻きがハッキリしていて興奮ものである。こちらもYouTubeに上がっていた。お聴きください。何も言葉はいりません。

 

 

(1980.12.20 アルバム『岩崎宏美リサイタル 宏美・22才の愛』収録)