宏美さんの童謡・唱歌シリーズ第2弾、『album Ⅱ』の最後に収められている。前作『ALBUM』から1年半も経っていないが、この2枚は若干音作りに違いがあるように思う。1作目は全体にハイトーンの使用が多く、まだ10代の宏美さんが、持ち前の美声にまかせて押し切っている。

 

 その点この2作目は、ボーカルアルバムとしてのクォリティはそのままに、全体にキーはやや低めで、ゆったり聴くことができる。「浜辺の歌」の中低音の響きなど、是非聴いていただきたい。また、「島原地方の子守唄」では、高音部に自然なファルセットを使い、こちらも聴きやすい仕上がりになっているように思う。この「故郷」も、キーはやや低めの設定で、心地よく聴くことができる。

 

 

 宏美さんから大きく逸れるが、この「故郷」と言うと、私はどうしても触れずにはいられないことがある。楳図かずお氏の不朽の名作漫画『漂流教室』の一場面である。『漂流教室』は、地球滅亡寸前の未来に校舎ごと来てしまった小学生たちが、さまざまな苦難を乗り越えていく物語である。テーマは時空を超えた親子の愛情と、公害問題である。未来キノコを食べてしまい、次第に人間らしさを失っていく仲間たちの心を呼び戻そうと、子どもたちが大声で「故郷」を歌い続けるシーンは、何度読み返しても涙を禁じ得ない。

 

 

 さて、この『album Ⅱ』を買って間もなく、私は地方の大学生となり、ひとり学生宿舎に引っ越した。ガラーンとした部屋は、病院か監獄のようで、その上とてもタバコ臭く、急に寂しさと不安を覚えた。親戚の「おばちゃん」から入学祝いにもらったばかりのトライジーというテレビ付きラジカセで、『album Ⅱ』をかけた。毎日聴いているはずの宏美さんの歌声が何故か懐かしく聞こえ、最後の「故郷」では涙が出た。入寮1日目にしてホームシックである。もっとも、翌日にはケロっと直ったが(笑)。

 

 私の亡くなった母は、書や和歌を嗜む人だった。この数年後姉が嫁ぐ際に、母は3人の子どもたちのことを詠んだ和歌を書きつけた帳面を姉に贈った。そのコピーが手元にあるが、そこに私が学生宿舎に越した日のことを詠んだ歌があった。

 

慌しく子は発ち行きつ感傷のかけらもなくて寮に入る日の

 

 時は流れてーーー。2016年8月27日、群馬県藤岡市みかぼみらい館。『岩崎宏美 with 国府弘子 ピアノソングス』初日。アンコールで弘子さんのピアノ一本で歌われたのが、この「故郷」。年輪を重ねた宏美さんの包み込むような温かな歌声に、また泣けた。

 

 

(1980.2.1 アルバム『album Ⅱ』収録)