札幌在住のシンガーソングライター、境長生氏による渾身の書き下ろしである。ご自身が長年宏美さんと共に歩んだファンでいらっしゃる。(「岩崎宏」名義で、オール宏美さんのナンバーというライブも行なっている。)そして、ライナーノーツによると、宏美さんとプライベートでいろいろやりとりもされているようである。だからこそ書ける、宏美さんの歌手人生そのものを表した詞に、深く心を打たれる。7分近くもある壮大なバラードである。

 

 

 出だしのAメロ、低音域のG#とF#、或いはC#とBを16分音符が行ったり来たりする部分。語るように畳みかけてきて、宏美さんのこれまで歩んできた道がパーッとあざやかに映像として目の前に浮かび上がる。

 

♪ 初めて唄った秋の日はバラードという名の旅立ち

 

♪ 初めて唄ったララバイは今も大事な私の愛

 

♪ やがて出会った人たちも今は帰らない場所にいたり

 

♪ 神様はそれでも私から歌を奪わずいてくれた

 

等々、どの部分も宏美さんの歌をずっと追い続けてきた人ならば、何のことを言っているのか瞬時に了解できるのである。

 

 2コーラス目のAメロの最後に、こんな詞を持ってくる長生さんの才能に脱帽である。

 

♪ 今あなたのために唄えているこの奇跡に言葉もない

 

 聴いているファンは一人ひとり、皆自分のために歌ってくれていると信じ、その奇跡に涙するのである。

 

 そしてBメロ、サビのCメロは対照的に長い音符を用いて音域も上がり、宏美さんが身上とする歌い上げに入る。大サビDの「♪ 誰かの祈り 誰かの願い〜」の部分を経て、再びCメロが回帰する。「♪ 人生の贈り物すべて五線紙の上」という結びで、「そう、宏美さんの半生は常に歌、音楽とともにあったのだ」と聴く者すべてが深い感慨に浸るのだ。

 

 

 この曲は、アルバムのラストに収録されており、またコンサートでもアンコールの最後に歌われた。私の妻も「この『五線紙の上』が一番いいね」と言っていた。宏美さんにずっと歌い続けてもらいたい名曲が、また誕生した。

 

(2018.8.15 アルバム『PRESENT for you ✳︎ for me』収録)