ビクター時代最後のシングル。この曲に関しては、宏美さん陣営は気合の入り方が違った。作詞に「叫ぶ詩人の会」のドリアン助川氏を起用、作曲にはデビュー以来宏美さんを音楽的に支えてきた筒美京平氏が久々にカムバック。2種類のキーでレコーディングをし、どちらが良いか慎重に論議をしたと言う。宏美さんはふたことめには「今の岩崎宏美のイチオシ曲です」と力強く仰っていた。

 

 

 強烈なタイトルと、「殴ってもいいですか あなたの胸を」などのキャッチーなフレーズ。そして、岩崎宏美という逸材の声を知り尽くしている筒美氏によるメロディー。特にサビの部分は、ファルセットをメインにしており、それまでの宏美さんの楽曲には見られなかった新鮮な効果を生み出した。アレンジは、キーボードとストリングスが中心だが、リズムセクションは打ち込みを駆使したものであった。

 

 プロモーションビデオも流れ、テレビへの露出も増えたが、やはり第一線から遠ざかっていた期間の影響が拭えなかったのか、商業的に大きな成功を収めるところまでは行かなかったようだ。しかし、その後2008年、2012年のコンサートツアーでもこの曲を取り上げるなど、宏美さんの「許さない」への思い入れは本物であった。是非また次回のツアーでも聴かせて欲しい名曲である。

 

 

 この曲がリリースされた当時、私は海外に赴任中であった。ちょうどインターネットの黎明期で、Nさんが主宰する「岩崎宏美メーリングリスト」で、お互い顔も知らない同士が、宏美さんの歌を通じて繋がり、メールのやり取りを楽しんでいた頃であった。日本にいるお仲間は、オフ会と称して集まることもあったようだ。私はまだどなたにお会いする機会もないまま、皆さんのご厚意でいろいろ宏美さんに関する資料や音源等も送っていただいていた。また、この前年5月に私が住んでいた首都で政変が起こり、一時緊急帰国を余儀なくされた。その際にまだ顔も知らなかった宏美ファンの皆様に支えていただいたことは、生涯忘れられるものではない。

 

 この「許さない」を聴くと、宏美さんの透き通った声の向こう側に、あの慣れない異国の地に於いて、宏美さんの歌を聴いたり、それについて語ったりした愛しい日々が蘇るのである。

 

(1999.3.3 シングル)