本の紹介
『子どもの国語力は「暗読み」でぐんぐん伸びる』
鈴木信一著 ソフトバンク新書
報告 二色博樹
この本を書店で発見し、手に取ったとき「?!」と思った。?の方は「暗読み(くらよみ)」って何?」という疑問で、!の方はページをめくって「ついにこういう本が出たか!」という感慨からだ。「暗読み」とは、親が子に物語を聞かせる際、寝床に入って電気を消して語る手法を筆者が自分で名付けたものである。筆者は現役の高校国語教師。長年生徒に物語や小説の創作指導を行っており、その分野の著作もある。現在は早稲田大学文学部の派遣研究員でもある。この筆者が自分の娘を「暗読み」で育てた経験から、この方法の利点を説明していく。
まず、「暗読み」は聞いてる子どものイメージ喚起力や文章の理解力や構成力を高めるということである。寝床では普通絵本などを読み聞かせるが、電気を消したら絵本は読めない。そこで親(話し手)が自分で覚えてる話や創作した話を語ることになる。また、絵本では子どもは絵に心が捕われるし、絵を見てるから自分でイメージを想像する行為が少なくなる。しかし、「暗読み」をすれば、子どもは音声のみを頼りに語られることばに集中し、頭の中に場面場面のイメージをよりよく喚起させることが出来るようになる。それが子どものことばや脳の発達にも役立つそうである。幼児期から小学校低学年時に「暗読み」を受けた子は「お話好き」になり、高学年になるにしたがって「読書好き・国語好き」になっていくそうである。また、「暗読み」はお話をする親の側にもいい訓練になるという。自分の知ってる童話や体験談などを文章を見ずに語ることによって、話の構成力や表現力が鍛えられるそうである。
さらにこの本が有益かつ実用的なのは、「語るネタが尽きたときどうするか」について語っているところがあるからである。どうするかと言えば、それは話し手の「創作」で補うよ勧められている。その手順はこうだ。まずとにかく何かを語り始める。その日、目にしたことや思いついたことなど、何でもいいからまず口に出してしまう。その最初の一言を基点にして、考えながら話していくのである。そのコツは、前に話したことがらの足りない部分を補い説明していくことを繰り返すのが基本だ。何かを一言口に出せば、必ず何かを更に説明しなければならなくなり、その説明に文が継ぎ足され、文章が編まれていく。一通りのことがらが語られたら、場面転換や新登場人物の投入で展開を図っていく。このとき、子どもが発した質問やこちらが問いかけた謎に対する答えなどもストーリーに取り入れ、物語を発展させていく。本書では実例を交えながら、創作の手順を詳しく説明してくれている。
この「暗読み」をすれば、普通の親がすばらしい「ストーリーメーカー」に変身できるのである!私はこの下りを読んでいて感動した。今まで幾多の文芸創作マニュアル本を読んできたが、こんなに気楽に(聞いてるのは自分の子だけ。どんなに下手な話でも、まとめに失敗しても心配はない!)、こんなに楽しく(何しろ自由だし、親子共通のことがらで語れば個人化率100%!)、こんなにやりがいを持って(自分にお話をせがみ、熱心に聴いてくれるお客がいる!)実践できる創作レッスンを私は他に知らない。
と、ここまで書いてきて、『このレポーター(二色)結婚してた?子どもいた?』と思う読者もいるかもしれない。もちろん私は未だ独身で、当然子どもいない。『それならこの「暗読み」は無用の長物ではないか!』と思うこと勿れ。「親→子ども」を「教師→学生」に置き換えれば十分に応用できるのだ。これを教室活動に利用しない手はない。例えば、教師が教室で学生から出た話題やテーマを基に、即興でストーリーを語り聞かせるのである(教室を暗くする必要はない)。身近な話題や人物を登場させれば、学生はきっと興味を持つだろう。学生のレベルに合わせて単語や表現を難しくしたり簡単にしたり、途中で学生とのやり取りを挟んでいってもよい。ストーリーの展開を予測させたり、後で話のあらすじを話させたり、感想を述べさせてもよい。市販の聴解教材より集中力が増すのではないか。教師が何回か語ってるうちに「自分も語りたい」という学生も出てくるかもしれない。応用は無限である。文学部出の日本語教師や作文やスピーチの指導に困っている教師には一読をお勧めする。