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宝石たちの1000物語

[番外編]

深夜12時開店のBAR

 

フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新宿の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。

 

 

 

 

第44話

『合成ダイヤモンド』[後編]

 

マスターが帰り際に置いていったものは察しが付いている。

無言のうちに中を見ても良いと言う事だ。

マスターは包みを開いて、小さな袋を取り出した。

中から20ピースのダイヤモンドが、いやこれは明らかに合成と分かる代物だ。

しかしどれも10キャラ近くはある。

合成ダイヤもここまで大粒で品質の良いものが出来るようになったのだ。

一通り目を通すとまた元に戻した。

しかし何故元締はこれを預けていったのか。

理由は明日になれば分かるだろう。

そして次の日も、その次の日も元締めからは連絡がなかった。

その週末、店でその日の仕込みをしているところに元締めの愛人がやってきた。

「今晩は、マスター」

「やぁいらっしゃい」

「マスターに電話しようとしたんだけれど、元締めが直接会って話すようにと言われたの」

「元締めからなんの連絡もないので、心配してたんですよ」

「それは申し訳ありませんでした。実は元締め、緊急入院したんです」

「それはまたどうして」

「先日ここを出てから、チンピラに囲まれて、相手が多かったので、さすがの元締めも・・・」

「それで容態は」

「怪我は大した事ないんだけど、西新宿署の耳に入ってちょっと大事になっちゃって」

「それは大変でしたね。原因は置いていったアレですね」

「私が預ると言ったんだけど、マスターに預かって貰えば安心だと、咄嗟の判断と言っていたわ」

「何か訳ありとは思っていましたが、あの合成ダイヤは一体どうして」

「訳は元締めが退院してから聞いて。それよりも、もう少し預かって貰えるかしら」

「それは構いませんよ」

「有難う、迷惑かけるけど」

「・・・」

「早速元締めに報告しに行くわ」

「お気をつけて」

しかし、合成ダイヤはどちらかというとメレ石かせいぜい1キャラ程度のモノと思っていたが、

大粒のダイヤモンドができるようになると市場はかなり混乱していくだろう。

それよりも元締めがどうしてあのようなダイヤモンドを持っていたか、そちらの方が不思議だ。

今や世界のダイヤモンド業界は上から下まで不安材料が半端ではない。

ロシアのダイヤ、インドの支配力、ベルギー、イスラエルのカッターの地盤沈下、流通面でも激しいシェア争いが繰り返されている。

デ・ビアスの一強時代が終わるとロシアが力を強め、

その上合成ダイヤが一枚加わり、ますます混沌としてきたのだ。

しかし元締めも変なことに巻き込まれなければいいなぁ、

とマスターは誰にともなく呟いたのだった。