宝石たちの1000物語

 

[番外編]

深夜12時開店のBAR

 

 

 

フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新宿の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。

 

第39話

『合成ダイヤ』

 

 

「今日はやけに沈んでいるじゃないか」

開店早々やってきた美江はいつもと違って一言も喋らず

出されたウォッカのオンザロックを飲んでいる。

これで4杯目だ。

「美江ちゃん、もう一杯飲んだら今日はおしまいだよ」

「うん分かった。もう一杯飲んだら帰る」

「所でマスター明日店を開ける前にちょっと時間取れる?」

「ああいいよ、夕方の6時には来ているから」

「有難う」

翌日美江は来なかったが、数日して開店前に店に来ると、

ポツリと話はじめたのだ。

「私の付き合っている彼が会社のお金を使い込んだの。いま弁済すれば警察に届けないって言われて」

「その金額はいくらくらいなの」

「200万円」

「サラ金には絶対に手を出さないって約束しているんだけど、金策なんて無理」

「・・」

「私の持っている母の形見のダイヤモンドを売ろうかと。でも買取屋はCMと違って実際には二束三文に買い叩くらしい」

「そのダイヤモンドいま持っているの」

「ここにあるわ」

「これちょっと預かっていいかい。200万円は無理だけど少し役に立つかもしれない」

「マスター無理しなくていいよ。それでなくてもいつもお世話になっているんだから」

「ところで彼はどうしているの」

「彼とは別れようと思っているんだけど、なかなか踏ん切りがつかない」

「事情は分からないけれど、美江ちゃんが肩代わりしても彼が立ち直るとは思えないんだけど」

「そうかも知れない」

「兎に角2、3日これを預かるよ」

何日かして開店前に美江がやって来た。

「マスターあのダイヤもういいや、彼とは結局別れた。喧嘩別れ・・」

「そうか。ところであのダイヤどうしたの」

「あれはねぇ、ちょっと訳ありなの」

「無理には聞かないけれど、かなり出来の良い合成ダイヤだった」

「えぇっ、本当に」

「この前預かった時に分かっていたんだけれど、一応念のため知り合いの鑑別屋に・・・」

「私ってつくづく男運がないのね。なんど騙されたらいいのかしら」

そういって、美江は帰って行った。

こういう商売をしていると、いろんな人の人生模様を知り、

その多くは自分の力ではなんの手助けもできない。

世の中の不条理を嫌というほど知らされるのだ。

マスターは以前イギリスで宝石の仕事をしていた。

ひょんなことから宝石商と知り合いになり、

10年間その宝石商のもとで宝石のイロハから修行をした。

お陰さまでイギリスでトップクラスの鑑定士になったのだが、

ある事件があり、日本に舞い戻って来たのだ。