宝石たちの1000物語

 

[番外編]

深夜12時開店のBAR

 

フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新宿の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。

 

 

 

 

第38話

『ルビーとスピネル』

 

「今日は客として来たんだ」

そう言って店の重い扉を押して入って来たのは、新宿北署の刑事だった。

「おや珍しいですね。今日は非番ですか」

「家にいてもカミさんがうるさいから逃げ出して来た」

「そんな事言って後で奥さん来るんでしょ」

「煩いな、ビールをくれ。それからきんぴら」

「はい分かりました」

「今晩は」

噂をすれば何とかで、刑事の妻が遅れてやってきた。

周りの客たちが「いよっ!お安くないですね」

と囃し立てたから刑事も柄にもなく少し赤らんだ。

意外と初心なところがあるから、この刑事は客たちに人気がある。

「私には生ね」

「ところでマスター最近チンピラがこの辺をウロチョロしていないかい」

「あらっあんた、今日は仕事の話は抜きで私を連れ出したんじゃないの」

「いや、なに、その」

「この辺にチンピラは掃いて捨てるほどいますよ」

「そういえばうちの隣の婆さんが、300万円被害にあったよ」

「最近流行りのなんて言ったっけ」

「振り込め詐欺だろう」

「そうそうかなり手の込んだ詐欺や乱暴な詐欺が後をたたないね」

「先日も大掛かりな詐欺が摘発されたよね」

「警察は一体何を・・・」

「よしなよ、ここに警察の方がいらっしゃる」

「あわわわっっ!!!」

「もう遅いよ、これだからジジィはダメなんだよ」

「ところでそのチンピラですが、なにか」

「ちょっと訳ありで、もし不審人物がいたら至急連絡してくれ」

「わかりました」

「マスター何か楽しい話題はない。この人が来ると途端に暗くなるから困っちゃう」

「そういえばマスター先日のダイヤモンドを置いて行った話はどうなった」

「あれは元締めに返しましたよ」

「しかしあるところにはあるもんだね。俺なんか宝石とは全く縁がないよ」

「何をいっているんだい。カミさんにルビーの指輪をプレゼントしたと騒いでいたじゃない」

「あれは、結婚と誕生日を兼ねて何十年ぶりに・・」

「いいところがあるじゃねえか、なんで儲けたんだい」

たわいもない話をしているとこに、刑事のケータイが鳴った。

「もしもし、分かった現場はどこだい、すぐに駆けつける」

といいながら刑事は店を後にした。

「相変わらず仕事の鬼だね、非番でもケータイが鳴ったらご出勤だよ」

「そういえば昔ルビーの指輪、なんて歌が流行ったね」

「俺はルビーよりもスピネルの赤が好きだね」

「おやどうしたの、全然似合わない人からいきなり宝石の話が出て来たよ」

「奥さんが楽しい話題を、っていうからちょっとね」

この続きはいずれ・・。