宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。
アンコール特集:シリーズー1
第9回
《アルマンディンガーネット/almandine garnet》
『娘よ!!』
娘の結婚式でまさか涙を流すとは思わなかった。
笑顔で新郎にバトンタッチをするぞ、
と式の前日、妻と冗談を言ってたのに、
いざバージンロードを娘と歩くと、感無量で涙が一筋頬を伝った。
気がつくと娘がハンカチをそっと差し出し
「お父さん長い間ありがとう」そういった。
それほど裕福ではなかったけれど、一応重役にまでなったし、
娘を一人前に育てたつもりでいる。
まだ娘が小さかった頃、大病をして生死の境を彷徨った事があった。
入院先のベッドで小さな手を差し出して
「パパ、これをあげるよ」といって私にくれたのは、
娘の誕生日に買ってやった、ガーネットだった。
このときにも思わず泣いてしまった。
けなげな娘は、私からのプレゼントを肌身離さず大事に持っていたのだ。
それを私に返そうとしている。
私は娘の手を握り返し、
「これはお前にあげたのだからずっと持っていなさい」
「うん!わかった」
娘はそれから1週間絶望的な状態をさまよったが、
奇跡的に回復し、元気に育ってくれた。
結婚指輪は二人でブランドものを用意したらしいが、
婚約指輪はその時のガーネットで作ってしまった。
新郎の親からはクレームが来たらしいが、
娘はそんな事気にせず逆に新郎を説得してしまった、
と妻から聞かされた時は正直複雑だった。
新郎に済まないような気もしたし、
娘はやっぱり私の娘だった、と誇らしくもあった。
次々と来賓の祝辞が流れていたが、殆ど聞いていなかった。
この何時間か、娘との想い出を巡らせてそれで終わりだ。
明日からは嫁ぎ先の人になる。
まあこんな時代だから、いつでも帰りたいときには帰ってくるだろうし、
孫でも出来ればまた違った付き合いにもなるだろう。
いつの間にか披露宴も終盤に差し掛かり、
新郎の父親のスピーチに代わっていた。
そうだもう一つ想いだした事があった。
あれは確か小学校の父親参観のときだった。
いつも元気な娘が大きな声を張り上げて
「私は大きくなったらパパのお嫁さんになるのが夢です」ときたものだ。
周りは爆笑の渦、私は恥ずかしくて小さくなっていたのだが、
急に側に駆け寄った娘は私の手を握りしめて「パパきっとだよ」と。
あの時は正直驚いた。
娘があそこまでやるとは。
後で担任の教師から
「お父さんは娘さんを本当に可愛がっているんですね、羨ましいです」
と云われたときには、穴があったら入りたかった。
でもそんな娘が、いつの間にか成長して、こうして嫁いでしまうのだった。
“娘よどうか幸せになっておくれ”。
