宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。




シリーズ−2
第59話《ルビー/ruby》


『作家生活』


俺の忙しいのは週末と決まっている。
金土日は死にものぐるいで原稿を書く。
現在抱えている連載物が3本。
いずれも週刊誌の類いだ。
軽いエッセイだからといっていい加減に書く訳にはいかない。
ものによってはしっかりとウラを取らないと、編集者からクレームが来る。
従って息抜きが出来るのは月火ぐらいのものだ。
いつものように原稿を書き上げメールで送った俺は、月曜日の遅めの午後に目が覚め、
熱いのと冷たいシャワーを交互に浴びて、新宿に繰り出した。
デパートの洋酒コーナーで、普段飲めないシングルモルトを2、3引っ掛け、
紀伊国屋書店で新刊本を4冊買い、
隣の喫煙具店でオールセンのCLASSICというパイプ煙草を2つ求めた。
この4、5年パイプを復活させ、
歳のせいかパイプが似合うと他人から煽てられすっかりのその気になっている。
新宿西口にある喫茶店PEACEは全席喫煙という今時珍しい店で、
編集者と打合せをしたり、構想を練ったりするときに利用する。
いつものように奥の席に落ち着くと、先ほど買った煙草を取り出し、パイプに火をつけた。
この一服感が堪らない。
先ほど買った新刊本を開いてさっと斜め読みをしていると、かすかに香水の匂いがした。
ふと見上げると、そこに妙齢の夫人が立っていた。
「暫くね、お元気」といって、向かい側の席に座った。
「おや珍しい、どうしたの」
「やっと捕まえたわ。電話しても出ないし、メールを送っても梨の礫なんだもの。ここにくれば会える思って網を張っていたのよ」
「おいおいなんか女郎グものような表現だね」
「失礼ね、あなたが返事くれないからじゃない」
「いや、失敬失敬。ちょっと雑用に追われてね」
「いつもそうやって逃げるんだから。今日こそ良い返事を聞くわよ。来月からの連載オーケーしてよ」
彼女はある雑誌社の編集担当者で、『赤い宝石の女たち』というタイトルでショートショートを連載する依頼を受けていたのだ。
「まだ構想が纏まらないんだ」
「もう半年も待ちぼうけだから、私の立場も解ってよ。首になっちゃう」
「解ったよ、君が首になったら困るから、来月から書くよ」
「嬉しい、それなら第1回は『ルビー』でね。私の誕生石から初めて欲しいわ」
「ほう君は7月生まれか」
「良かったらプレゼントも受け付けるわよ」
この女とは5年以上くっついたり離れたりしている関係でもあるのだが、
このさっぱり感がお互いしっくりいってるのかも知れない。
でもルビーの宝石言葉は、確か情熱的だったな・・。