宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。
◎
シリーズ−2
第53話《ダイヤモンド/diamond》
『オークション』
オークション会社からプレヴューの招待状が来た。
本当はオークションの会場に行きたいのだが、
なかなかチャンスがなく未だに行けないでいる。
独りで行くのも詰まらないので、
久し振りにあいつにメールを打った。
折返しすぐに返事が来た。
付き合っても良いけれど何処かで食事をしようという。
最近あいつとは会っていなかったので、
銀座辺りで天ぷらでも食べようという事になった。
現在の日本で本物の宝石を見ようとすれば、
一流のオークションにいって見るのがベストだ。
時間の約束をして俺は事務所を出た。
待ち合わせにはまだ時間がある。
行きつけの本屋に立ち寄って注文の本を受け取った。
本を買うにも色々な手段があるが、
新刊本はメールで頼めるなじみの本屋が便利だ。
途中煙草が吸える喫茶店に行き、
コーヒーを飲んでいたらスマホが鳴りだした。
あいつが会場に着いたという。
俺は喫茶店を後にして、
プレヴューの場所に向かって歩き始めた。
会場はいつになく賑わっていた。
今回の目玉は何といっても
去るところから出品された、20カラットの宝石だ。
いつの間にかあいつが俺の側に来ていた。「凄いわねぇ!!」
「これは逸品だよ」
「凄過ぎてくらくらしちゃうわ」
「相変わらずオーバーだな」
「じゃあ買ってくれる」
「よせよ、今の俺に買える訳がないだろう」
「最近仕事うまくいっていないと風の便りよ」
「業界狭いから誰が何処でくしゃみしたなんてすぐに広まっちまう」
「でも安心して、場合によってはパパに云って出資してもらえば良いんだから」
「いやヒモにはならない主義だから遠慮しておこう」
「私が頼むんだからいいじゃない」
「それが余計なお世話なんだよ。俺は今まで誰の世話にもならず独りでやってきた。これからも変わらない」
「判ったわそれよりも何処かで何か食べよう」
「あれっ、天ぷらじゃなかったのか」
「いま気が変わったの。そうねお寿司が食べたい」
どうせ支払いはあいつだから、俺は何でもいい。
食事が済んでホテルのバーのカウンターで一杯やっていると、
突然あいつが切り出した。
「ところでさっきのダイヤモンドだけど、私競り落とすわよ」
いつになく興奮していた。
よほど気に入ったのだろう。
確かにあのダイヤモンドは掘り出し物だ。
もしかするとかなりの額のハンマープライスになるかも知れない。
旨く競り落とせたら俺のネットワークで直ぐに売れるだろう。
でもこれって
結局あいつのひもになっている証拠ではないか。
俺は改めて絶望感を感じ始めていた。
