宝石たちの1000物語

人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。

 

 

シリーズ−2

第53話《ダイヤモンド/diamond》

『オークション』

 

 

オークション会社からプレヴューの招待状が来た。

本当はオークションの会場に行きたいのだが、

なかなかチャンスがなく未だに行けないでいる。

独りで行くのも詰まらないので、

久し振りにあいつにメールを打った。

折返しすぐに返事が来た。

付き合っても良いけれど何処かで食事をしようという。

最近あいつとは会っていなかったので、

銀座辺りで天ぷらでも食べようという事になった。

現在の日本で本物の宝石を見ようとすれば、

一流のオークションにいって見るのがベストだ。

時間の約束をして俺は事務所を出た。

待ち合わせにはまだ時間がある。

行きつけの本屋に立ち寄って注文の本を受け取った。

本を買うにも色々な手段があるが、

新刊本はメールで頼めるなじみの本屋が便利だ。

途中煙草が吸える喫茶店に行き、

コーヒーを飲んでいたらスマホが鳴りだした。

あいつが会場に着いたという。

俺は喫茶店を後にして、

プレヴューの場所に向かって歩き始めた。

会場はいつになく賑わっていた。

今回の目玉は何といっても

去るところから出品された、20カラットの宝石だ。

いつの間にかあいつが俺の側に来ていた。「凄いわねぇ!!」

「これは逸品だよ」

「凄過ぎてくらくらしちゃうわ」

「相変わらずオーバーだな」

「じゃあ買ってくれる」

「よせよ、今の俺に買える訳がないだろう」

「最近仕事うまくいっていないと風の便りよ」

「業界狭いから誰が何処でくしゃみしたなんてすぐに広まっちまう」

「でも安心して、場合によってはパパに云って出資してもらえば良いんだから」

「いやヒモにはならない主義だから遠慮しておこう」

「私が頼むんだからいいじゃない」

「それが余計なお世話なんだよ。俺は今まで誰の世話にもならず独りでやってきた。これからも変わらない」

「判ったわそれよりも何処かで何か食べよう」

「あれっ、天ぷらじゃなかったのか」

「いま気が変わったの。そうねお寿司が食べたい」

どうせ支払いはあいつだから、俺は何でもいい。

食事が済んでホテルのバーのカウンターで一杯やっていると、

突然あいつが切り出した。

「ところでさっきのダイヤモンドだけど、私競り落とすわよ」

いつになく興奮していた。

よほど気に入ったのだろう。

確かにあのダイヤモンドは掘り出し物だ。

もしかするとかなりの額のハンマープライスになるかも知れない。

旨く競り落とせたら俺のネットワークで直ぐに売れるだろう。

でもこれって

結局あいつのひもになっている証拠ではないか。

俺は改めて絶望感を感じ始めていた。