宝石たちの1000物語[番外編]
深夜12時開店のBAR


 

 

フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新大久保の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。

第16話
[ダイヤモンド]

年甲斐もなく自分よりもふた周りも年下の娘に恋をした。
きっかけは些細な事だった。
私がいつも立ち寄るBARで、マスターを相手に独りでグラスを傾けていた。
そこへ彼女が入ってきたのだ。
見かけは童顔だが30過ぎだろうか。
かなり飲んでいるようだが、正体をなくしているようには見えない。
席に着くなり、ブランデーを注文した。
それをひと息にあけるとお代わりを注文した。
さすがにマスターは
「お客さん余計な口出しで申し訳ないが、これっきりにね」
と優しく言ったが、その時はカウンターが枕になっていた。
こういう飲み方は、決まって何かあるときだ。
暫くほって置いた。
小一時間もした頃目が覚めた彼女は
「マスターお水頂戴」と言いながら私と目線が合った。
かなり虚ろな目をしている。
飲んでいる時は気が張っているけれど、
時間が経つに連れて酔いが廻ってくる。
しかしこの娘は、妙に艶っぽいところがある。
自分で意識していないところで、
色気を感じさせる女性はそういるものではない。
マスターを挟んで三人がとりとめのない会話を楽しんだ。
「そろそろ帰るか、マスターお勘定」
「あら私も帰るわ」
「そう何処まで帰るの」
「私は荻窪」
「なら方向が一緒だ、私は吉祥寺だから送っていくよ」
「じゃあ途中までご一緒させて下さい」
それ以来この店で何度か会うようになったが、
彼女はあの時ほど酔うという事はなかった。
打ち解けてみると、意外に素直なところがあり、
またオヤジギャグにもついてこれた。
或る日の夕方友人と待ち合わせる約束があり、
喫茶店で一人お茶を飲んでいると、そこに彼女が現れた。
偶然というヤツなのだが、そればかりではない何かを感じた。
「あらっ」
「よう、偶然だね。どうしてここに」
「私、友達と約束していたんだけど来れなくなっちゃったというので、お茶して帰ろうかと」
「そうですか。良かったらここへどうぞ」
「ありがとうございます。あなたは」
「友人と待ち合わせなんだけど、まだ時間が早くて」
なんとなくそう云った感じだったが、
酒場と違い場が持てずにいた。
そのとき私のケータイに彼から急用出来たので来られないというメッセージが入った。
これも何かの縁だろう。
それから急速に親しくなったのだが、
一方的に惹かれたのは私の方だった。
でも彼女の方は天衣無縫で、私の事は微塵も想っていなかった。
でもそれで良い、と思った。
こうして時々会って貰えるのが丁度良いのだ。
彼女の耳元のダイヤが私にそう呼びかけた。