宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。
シリーズ−2
第48話《ルビー/ruby》
『窮地』
どうにもならないところまで追いつめられていた。
人一倍努力をしているのだが、一向に上昇志向にのらない。
今度結果が出なかったら、このプロジェクトから降ろされるだろう。
それは仕方がないのだ。
結果が全ての世界で、できない理屈をいくら並べても、所詮は負け犬の遠吠えだ。
最悪、いまの会社を辞めなければならないだろう。
辞めてどうするか。
自分一人だったらどうにでもなるが、妻と5歳になる娘がいる。
来月から収入がなければ直ぐに生活は窮する。
妻はいつも黙って私の後をついてきてくれたが、今度ばかりは何と云うだろうか。
人生ってヤツはどうしてこう上手くいかないのだろう。
つい先月までは、このままいってくれたら、直ぐに課長だと上司にいわれ、その気になっていた。
いや間違いなくそうなっただろう。
自信もあった。
もうちょっとだったのだ。甘いと云われるかもしれないがそれは結果論だ。
失敗すると、決まって「甘いっ!」と云われる。
それは否定できないが、全て自分が悪いのではない。
よそう、今更愚痴をいっても始まらない。
大事な事はこれからどうするかだ。
そう云えば以前に海外赴任していた頃、或る人からプレゼントされたものがあった。
なんでこんな事を今頃思い出したのだろう。
デスクの引き出しを開けると、奥の方に小さな箱が鎮座していた。
蓋を開けると、布製の袋が出てきた。
その中に数10個の宝石があった。
宝石なんかに興味がなかったから、いままで気にも留めなかったが、一度私の友人にみてもらおう。
彼は銀座の宝石店に勤めている。
もう何年も会っていないが、このくらいの相談には乗ってくれるだろう。
明くる日、彼に電話をして店に行った。
応接室に通されると、やがて彼が部屋に入ってきた。
「やあっしばらくだね」
「ご無沙汰」
「ところで用事はなんだい。これから会議に入るから手短に頼むよ」
「実はこれをみてもらいたいんだ」
彼は私から宝石の入った袋を受け取ると、中から取り出して机の上に並べた。
「ほほ〜っ。これは一体何処から手に入れたんだ」
「昔海外にいた時に貰ったものだ」
「これをどうしたいんだ」
「訳ありで、売れるものなら売りたい」
「いくらで?」
「僕には解らないから任せるよ」
「解った。ちょっと待って」彼は奥の方にいって暫くすると戻って来た。
「このノンヒートのルビーかなりの上物だよ。
私に任せてくれればある程度まとまった額にはなるかもしれない」。
僕は一切を彼に任せる事にした。
「宜しく頼む」。
