宝石たちの1000物語

人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。

 

シリーズー2

第39話《シトリン/》  

『友情と恋』

「俺、今度の話、断わろうとおもうんだ」

「藪から棒に何をいいだすんだ」

「俺はこの歳まで独身だから、今更生活の事は考えなくて良いし、それよりももっとやりたいことがある」

「このプロジェクトは君がいないと始まらない」

「いや、君には申し訳ないが、やはり俺は降りるよ」

「君の考えが固いならそれを尊重するよ」

「すまん」

「いいさそれよりも飲もう」

彼とは医学部の同期で、定年後に或るメーカーの顧問に内定していた。

私は恥ずかしながらエリートコースを歩んだ。

彼は世渡りが下手で、仕事でも研究でもあまり目立たず、そのうえ自分の売り込みも下手だった。

でも私は彼の才能を確信して、何とかして引立てようと、一緒じゃないとこのプロジェクトは意味がないと、主張した。

でも彼にはそれが重荷だった。

所詮は出世欲がないのだから仕方がない。

そのうちきっと何処かでぼろが出る。

そうすると私に迷惑をかける事になる。

或る日彼は、近くの神社の縁日へブラブラと出かけた。

そこに金魚すくいが出ていたのだが、そこで働いている女の子と親しくなった。

半年もするとその娘と同棲を始めるに至った。

私はその経緯が気になり、金魚すくいの娘に会いにいった。

「オジさんこの中の金魚どれがイチバン優秀か当ててご覧よ」

「どれといったって、そんな事判る訳ないだろう」

「でもね、一人だけ当てた人がいるんだよ」

「・・・」

「今一緒に生活している。オジさんの友達よ」

「・・・」

「あの人はね、全部同じだ、って。そんな事いったのはあの人だけだった」

「あっ!そうか」

「私にね『フツーの暮らししかできないけどそれでもいいかって』私はそれが一番、って答えた」

彼ならそう云いそうだ。

名誉や欲なんてこれぽっちもない男なのだ。

だから彼と長年付き合っていられる。

「おじさんはね『俺は名医者でも、高度な研究ができる訳でもない、町医者が一番合ってる』って。私感激して泣いちゃった」

「私この歳まで幸せなんか一つもなかった。この人なら歳なんて関係ない、例え短くても一緒に暮らそうと考えたの」

「あるときあの人が宝石をプレゼントしてくれたの」

「そのときあの人は『シトリンと云って、ごく普通の宝石だけど俺にそっくりな宝石だ。でも一緒にいると味わいがでてくるかも知れない』って」

「あの人がいった始めてのジョークだよ」。

私は今更ながらに自分の人生を深く反省したくなった。

人間にとって本当の幸せは、あいつのようなごく普通の生き方をする事なんだ。