宝石たちの1000物語

人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。

シリーズー2

第36話

《翡翠/jade》

 

昼下がり

 

どちらともなく誘った格好で、日比谷公園のベンチで昼飯を食う事にした。

そうしなければとても格好がつかない。

僕は最近何かと彼女にリードされるのに戸惑いを覚えている。

他人の話は羨ましがったが、いざ自分が当事者になると、昼下がりのデートは決して気持ちの良いもではない。

現に僕たちが手を繋いで歩いていると、周りの人たちは興味津々という目で見ながら、僕たちを面白がっているに違いないからだ。

彼女は170センチの長身で、スタイルもそして顔立ちも良い。

いわゆる美人タイプだ。

それに引き換え私は身長163センチで少し太り気味。

どう見たって蚤のカップルで、釣り合いが取れない。

そもそもアプローチしてきたのは彼女の方である。

会社の創立記念日の二次会で、知り合ったのだが、彼女が僕を気に入ったのは、二次会で話していたジョークが洗練されていた、と訳の分からない理由らしいが、それは同僚の女性から聞いた事だ。

或る日、社内電話でいきなり彼女から「今日お昼ご一緒しませんか。

下の受付で待っています」ときたものだ。

ビックリしながらも、兎に角1階のフロアーに降りていくと、いきなり腕を組んできたから二度ビックリだ。

「さあ行きましょう」

「どこへ行くのですか」

「この先の公園でお昼を食べましょう」

「あの、他には誰か仲間は?」

「私と二人ではご不満?」

「嫌、そんな事はないですが」

「だったらいいじゃないですか」

「でも僕何も用意していません」

「あらっ、私があなたの分まで作ってきたから安心して」

なんて強引な女なんだろうと思った。

僕は渋々ついて行くしかなかった。

今時このような女性がいるのだろうか。

嫌、今時だからこんな不思議な女性がいるのかも知れない。

でも彼女くらい美人なら、云いよって来る男は沢山いると思うのだ。

「私はね、貴方が大好きなんです!!」

「いや・・」

「先日の夜、貴方はオバアさんを助けましたよね。あの一部始終をみていたんです。あの時の貴方は素晴らしかった。男は外見ではないと気がついたの」

そう云われて思いだした。

先日新宿の花園神社で、酔っぱらいに囲まれて往生していた老夫人を私が助けたのだ。

あの時は夢中だったがそれをみていたなんて。

「私はいつも祖母から、男は外見で判断してはいけない、と云われていたんです」

僕はと云えば、彼女の颯爽とした凛々しい雰囲気に完全にのまれていた。

そのうえ彼女から翡翠のカフスまで贈られてしまった。

もし結婚したら一生尻の下にしかれる、と思った。