宝石たちの1000物語
人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。
◎
シリーズー2
第31話
《蛍石・フローライト/fluorite》
◎
『女ってヤツは』
◎
男と女を比べると、女の方が断然不可解だ。
一生かかっても女というヤツを理解するのは無理だろう。
いつも気まぐれで、我が儘で、その癖寂しがり屋だ。
この前も突然、マカオに行きたいと言い出して俺を困らせた。
でもたまにはマカオ辺りで気分転換もいいかも知れない。
そうだその前に香港に立ち寄ろう。
友人がやっているワンチャイの店でこいつに指輪を買ってやろう。
その足でマカオへは1時間ちょっとで行ける。
一晩カジノを楽しんで香港に戻り、一仕事するのも悪くない。
おれは投資家の端くれで、小遣いには不自由しない。
お陰さまで50過ぎたのに未だに独身。
だからと言って自由気ままに生きている訳ではない。
田舎には年老いた母親がいて、これが80歳で元気と来ている。
当分はこの世で生きたいようにやっていくだろう。
俺の性格も多分母親譲りだ。
俺には妹がいるが、こいつも生き方は母親に似ている。
若い頃に結婚して子供を産んで、さっさと離婚してシングルマザーでビジネスをやっている。
もしかすると俺より稼いでいるかも知れない。
妹の職業は宝石デザイナー。
香港の宝石店も妹の紹介で知った。
今付き合っている女は、以前に妹のオフィスで働いていた。
俺が遊び言った時、妙に俺と波長があって、それ以来の付き合いになった。
勿論独身で、歳の頃は40前後か。
独身のせいか若く見えるけれど、だからと言ってチャラチャラしている訳ではない。
俺の事務所の秘書のような事をやってもらっている。
仕事はできる。
仕事柄外国語を話せないといけないが、こいつは英語、フランス語、中国ができる。
付き合って3年になるが未だに一緒になりたいと言った事がない。
もしかすると結婚願望はないのかも知れない。
そして殆ど俺はこいつの事を知らないのだ。
事務所では絶対に公私混同するような事はしない。
仕事はできるから、俺もこいつの私生活に、必要以上に立ち入ったりする事はないが、それにしても知らない事が多すぎる。
そして時々発作的に我が儘になる。
マカオに行きたいというのも嬉しい反面こいつの意図を図りきれないでいる。
本当に女ってヤツは判らない。
パーティードフローライトのように、幾つもの煌めきが妖しく織りなし、なかなかこいつの本心を見せないのだ。
でもそれでも良いと思っている。
事業は上手くいっているし、何よりこいつといると気持ちが安らぐから不思議だ。
マカオは食い物がいま一なので、香港では中華料理を満喫することにしよう。
