宝石たちの1000物語[番外編]

深夜12時開店のBAR

フツーの何気ない日常の会話から奥深いジュエリーや宝石の世界に踏み込んでいく。男と女、女と女、そして男と男。舞台は新大久保の裏ぶれた片隅にある一軒の酒場。客が10人も入れば一杯になってしまう小さな酒場。深夜零時きっかりに開店し客がいれば何時までも付き合い、客が帰れば閉店する。そんな店にようこそ、いらっしゃい。今宵もまた・・・・。

第1話

[ダイヤモンド]

その2人連れは見るからにその筋ものだった。

「うちはやくざはお断りだよ」

「なにをっ!この野郎」

「まあ待ちなよ」と兄貴分が嗜めた。

「ちょっと腹がすいただけだ、騒ぎを起こす了見はないから安心しな」

「駄目だね、あんた等がいるだけで他の客が怖がっちまう」

「そういうなよ、大人しくするからさ」

「他の客には絶対に迷惑はかけないね」

「ああ、約束するよ」

「そんな訳だから、ちょっとの間辛抱して下さいよ」

おやじは他の客の誰にでもなくそういった。

「ところで何にする」

「おれは卵焼きが食いていな。兄貴良いでしょ」

「儂にはビールだ」

「ところで今度まともな職に就くと云ってましたよね兄貴。なにするんです」

「そうだな宝石屋でもやるか」

「そうすると俺はどうなりますか」

「お前は田舎に帰っておふくろの面倒見ろよ。もうやくざな稼業はお終いだ」

「俺も一緒に働かせて下さいよ」

「駄目だ、今度は妹と一緒にやるからな」

「いらっしゃい!」

「今晩は、あらもう来ていたの」

「おやあんたの兄貴というのはこの人だったのか」

「そうなの、今まで隠すつもりはなかったけど」

「いいってことよ。あんたの兄貴ならそういえば良かったのに」

「済まなかった」

この娘にこんな兄貴がいるなんて想像できなかったが、どうやら気質に戻るつもりらしい。

「ところで今度店を出すのにいくらいるんだ」

「いいわよお金の事なら心配しないで。それよりも完全に足を洗ったんでしょうね」

「勿論だよ。この間やっとGGの資格も取ったしな」

「店の裏方をやって貰うわよ。毎日顕微鏡を覗くのがお兄さんの仕事よ」

どうやら良い方向の話らしい。

その時やくざのケータイが鳴り、それを聞くとすぐに店を飛び出していった。

何日かして夕刊を見ていたおやじの顔がこわばった。

“・・発砲事件で、一人射殺される・・犯人は逃走中”

殺された男は確かこの前来ていた兄貴と呼ばれた男だった。

折角の幸せがこれで一つ逃げてしまった。

彼女は一体どうしているのだろうか。

あのとき兄貴が置き忘れていった袋を覗いてみると、そこには大小20個のダイヤらしきものが入っていた。

妹に渡す積りが動転していたに違いない。

何かの拍子に忘れたのだがこれが形見になってしまった。

どうやってこれを彼女に渡そうか、と思案した。

やくざは所詮やくざ。

でも妹は違っていた。

このダイヤの価値がどのくらいか知らないが、兄は妹にこれを渡したかったに違いない。

「バカな奴だ・・」

俺は思わず独りごちた。