エンターテナーの小説家・都筑道夫

 


『ますぶちStyle/宝石箱の片隅』

 

誰にでも熱狂的に好きになる人やモノを持っている。


それを他人(ひと)は『趣味』というらしい。


今度の引越で自分の蔵書を3分の2以上処分したのだが


どうしても捨てきれない作家と作品があり


部屋が狭くなるのを覚悟で持ってきた。


 

その中の一人、都筑道夫と云う作家は


ミキモト時代の先輩に教えられて知ったが


何冊か本を読むや否やいっぺんで虜になった。


それ以来、彼が出した殆どの本は買った。


それどころか、ミキモト時代にPR誌の原稿を依頼し


その自筆原稿はいまでも机の中にしまってある。


この時は何人かの有名人に原稿を依頼し


一緒に束ねてあるのだが、


これらはいまとなっては、私の大事な宝物の一つだ。


 

都筑道夫とはそう云った関係で


東中野の自宅兼仕事場にも、23度お邪魔した事がある。


昔ながらのフツーの仕事場で妙に感心した事がある。


それは他の作家、


例えば鎌倉にいた詩人で作家の田村隆一の家とは月とスッポン。


まるで売れない貧乏作家宜しく、という仕事場が、


私にとっては魅力的に感じたからだ。

 


彼の小説の中で好きなのは「退職刑事シリーズ」だ。


これは連作小説で、


日本におけるアームチェア・ディテクティヴ小説の


草分け的な存在である。


 

彼は本格推理作家と自任しているだけあって、


綿密に計算したプロットを考える。


従って、注意して読んでいかないと、


その仕掛けや、何故その結論に達したかが判らない。


そして何よりも博識家であり多趣味の人である。


 

文章も久生十蘭に負けず劣らず上手い。


そう云えば、都筑は久生十蘭の大ファンで


十蘭の顎十郎捕物帳が絶筆になった後、どうしても書きたくて


遺族に直談判し、『新顎十郎捕物帳』を書いた。



 

兄は落語家だった鶯春亭梅橋。



作家で落語研究家の正岡容に師事した。


2003年に74歳で亡くなってしまった。


都筑道夫も時代の駆け抜けていった一人かも知れない。


 

昨夜はまだ完全に回復していないのに


遅くまで都筑道夫のミステリー評論集


『死体を無事に消すまで』を読み直していた。