潤side
潤、レコードかけていいかい?
あ はい
いつのまにかドビュッシーのCDが終わっていた
それと 珈琲をおかわり
かしこまりました
1人分の豆をスプーンできっちり測ってミルに入れてハンドルを廻す
お客さんが多い時はつい電動ミルを使ってしまうけれど、それでもオーダーが入ってから豆を挽くことに拘っているのは前のオーナーの親父さんにそう教わったから
急いで力任せに廻しちゃだめだ
香りが飛んでしまうよ
ゆっくりゆっくりハンドルを廻す
美味しくなりますように
珈琲を煎れる過程でこの作業が一番好きだ
たった一人いるお客さんはレコードをセットしていつもの席に戻ると、新聞を広げて読み始めたが、暫くすると新聞から目を離さずに聞いてきた
何年になる?
はい?
おやっさんが逝ってから
もうすぐ三年です
…早いもんだな
はい
じゃ潤がここにきてからもう…
五年になります
そうか まだ子供だったな
その節はいろいろとお世話に…
礼ならおやっさんにな
はい
また、ショパンですか?
雨の日はショパンだろ?
ふふっ そうなんですか
強面の割にロマンチストで死んだ親父さんよりいくつか若いと思うその人は、なんの仕事をしているか知らないけれどほとんど毎朝珈琲を飲みにきてくれて店が混み出す昼前に帰っていく
そろそろ帰るか
雨 けっこう降ってますよ
もう少し待てば弱くなるかも
昼メシに帰らないとカミさんが煩いからさ
珈琲、ごちそうさん
おやっさんの味に似てきたよ
遠藤さんはそう言って帰っていった
ありがとうございました
雨はますます強くなってきた
今日はもうお客さんはこないかもな
一人になった俺は、いつかの雨の日に出会った彼を思い出していた
突然始まりました
こちらから派生したお話です
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