インフレ誘導、円安誘導は亡国の政策である! | ワーカーズの直のブログ

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2024年6月25日 (火) インフレ円安誘導は亡国政策

ものごとには陰と陽、表と裏、光と影がある。いま問題になっているのは為替と金融政策。2013年のアベノミクスは「円安誘導」、「インフレ誘導」を掲げた。他の問題と同様。円安もインフレにも「光と影」がある。ある者にとっての「光」が別の者にとっての「影」になる。別の言い方をすれば「利得」と「損失」を生む。インフレはどのような影響を与えるか。

 

インフレは債務者に利得を、債権者に損失を与える。借金している人は得をし、預金している人が損を蒙る。500万円の借金と預金を考えてみよう。この人の年収が500万円とする。仮に物価が10倍になったとする。年収は物価に連動して基本的に5000万円に向かう。しかし、借金と預金の500万円はそのまま。500万円の借金と預金は年収1年分だったのが年収の10分の1年分に変わる。借金も預金も10分の1の重みに減少する。これが「債務者利得」と「債権者損失」である。

 

また、インフレの進行は「賃金を受け取る労働者」と「賃金を払う企業」に真逆の影響を与える。長期的には名目賃金がインフレに連動するが、短期では名目賃金の連動は遅れる。インフレが進行しても賃金はすぐには追い付かないから実質賃金は減少する。

「インフレ誘導」の提案がなされた最大の理由は、企業の実質賃金負担を減らすことにあった。デフレの時代に企業の労働コストが上昇したことが背景だ。物価下落がデフレ。デフレになっても名目賃金を引き下げることは難しい。デフレの局面では実質賃金が上昇しやすい。

 

世界の大競争が強まり、先進国の企業が国際価格競争に負けるようになった。この事態に直面するなかで「インフレ誘導」が提案された。インフレが進行するときに企業が賃上げを控えれば実質賃金を引き下げることができる。「インフレ誘導」の提案は企業の実質賃金負担を軽くするために提案されたものなのだ。したがって、「インフレ誘導政策」は債務を抱え、賃金を支払う企業=資本の側に利得を与え、預金を持ち、賃金を受け取る労働者、一般市民に損失を与える政策である。

 

アベノミクスのインフレ誘導政策が根本的に間違っていると指摘してきた理由がこの点にある。インフレ誘導は資本に利得を与えて、労働者=消費者=一般市民に損失を与える施策である。

 

他方、円安はどうか。円安で利益を得るのは輸出製造業。150万円の日本製品は1ドル=75円なら2万ドル。1ドル=150円になれば1万ドルになる。150万円の車を300万円での価格にしてドル市場で販売しても売値は2万ドル。輸出企業の手取りは2倍になる。増加した手取りのすべてが純利益。他方で輸入食品を購入する消費者は大損する。1ドルの商品を購入する代金が75円から150円に値上がりする。灯油もガソリンも原油もすべて輸入品。食材の多くを占める小麦や大豆、トウモロコシなども輸入が太宗を占める。

 

円安は消費者=一般生活者の負担を大幅に増大させる。これだけでない。日本国民の所得、資産のグローバルスタンダードでの価値が減少する。海外での購買力が激減。一方で、日本の優良資産が外国資本によって買い占められる状況が生まれる。インフレ誘導、円安誘導は亡国の政策である。