「新型肺炎」政府の失策から身を守る「職場の心構え」
●潜伏期間でも感染する!
今回の新型コロナウィルス肺炎は「潜伏期間で無症状でも感染する」ことが、当初から感染症の専門家により指摘されていたにも関わらず、安倍政権は「水際対策」ばかりに躍起になり、中国人と接点の無い人をウィルス検査対象から除外し、結果として後手に回った失態は厳しく批判されるべきだ。ようやく二月二五日、政府の「基本方針」が示されたが、もはや「遅きに失した」と言っても過言ではない。
●基本はインフル対策の強化
「すでに私達自身もどこかで感染していて潜伏期間かもしれない」という心構えを持ち、身を守らなければならない。とはいえ、こうした事は初めてではなく、二〇〇三年の「SARS」や二〇〇九年の「新型インフルエンザ」、さらに言えば毎年ウィルスの変異した「インフルエンザ流行」でも経験していることである。
●「風邪かな?」すぐ受診を
まず発熱・頭痛・喉の痛み・せき等「風邪」の症状を感じたら、「様子を見よう」などと放置せず、またドラッグストアの売薬で済ませず、すくに「受診」することだ。職場の近くの開業医に行く。休暇を申請して時間内に受診するのが望ましいが、どうしても急に休めないなら、地域の「休日夜間診療所」に行く。わからなければネットで調べよう。
●通常の風邪(ライノウィルス)
受診に当たって、自分の風邪の原因が「ライノウィルス」(普通の風邪)か?「インフルエンザ」(感染力が高く重症化しやすい)か?「新型コロナ」(専門の医療機関へ)か?それ以外(肺炎球菌など)か?複数の可能性を想定しておくことが重要だ。医師にも「新型肺炎の可能性はないか?」聞く。その上で「普通の風邪」と診断されたら医師の処方に従い、早めに病気休暇を申請しよう。健康保険の傷病手当金の申請も忘れずに。
●インフルエンザならすぐ休む
インフルエンザか否かは、咽頭や鼻腔粘液を綿棒で採取し、簡易診断キットですぐに判明する。「陽性」と告げられたら、感染症予防法の就業制限の対象になるので、上司に伝え事業主の責任で五日間の出勤停止措置をしてもらう。就業規則で有給の「感染症休暇」があれば適用する。なければ病気休暇として最低でも傷病手当金は申請しよう。
●新型コロナを疑ったら
症状から「新型コロナウィルス肺炎」が疑われたら、保健所を通じて専門の医療機関を紹介してもらい、精密検査を受ける。新型コロナ「陽性」なら指定感染症の対象として、感染症病棟に入院する等の治療に入る。その際の病気休暇や有給扱いあるいは傷病手当金、場合によっては休業手当の可能性もあるので、上司や所属労働組合と相談しよう。治療法は現在未確立で対症療法か、新薬の「治験」などの治療計画が示されると思われる。インフォームドコンセント(説明と同意)にのっとり十分な説明を受けよう。
●呼吸器感染症は他にもある
なおこの他にも、高齢者に多い細菌感染症である「肺炎球菌」、栄養状態が悪いと現代でも発症する結核菌による「肺結核」、小児に多い「RSウィルス」「ヒトメタニューモニアウィルス」「マイコプラズマ肺炎」などがあるので、受診と診断は大切だ。
●予防も「インフル」に準じて
ライノウィルス、インフルエンザ、新型コロナいずれにしても、その予防は毎年流行するインフルエンザ対策と共通する。呼吸器疾患のウィルスの感染ルートは、セキ・クシャミなどの「飛沫感染」、ドアノブや衣服などからの「接触感染」、飛沫が乾燥し空気中を移動する「空気感染」だ。その中間の「エアロゾル感染」というのがあるが、これは主に医療機関での処置中に起こるもので医療従事者は注意すべきである。
●マスク着用は目的を理解して
マスクの製造が追いつかず、ドラッグストアで品切れになっているが、マスク着用の目的を理解する必要がある。マスクは近くでの「飛沫感染」を防止するためで、自分自身のセキやクシャミに際しての「セキ・エチケット」である。マスクが入手できなければハンカチーフ等で代用する。なお乾燥した微細なウィルスの空気感染では、通常のマスクの編目を通過してしまい、決して万能ではない。また同じマスクを長時間使用すると、かえってガーゼに雑菌が繁殖して逆効果になるので注意が必要だ。
●手洗いは流水・石鹸・アルコールで
手洗いの目的は「接触感染」の防止である。ウィルスが付着したドアノブや電車・バスの吊り革、衣服や家具に接触した手や指で、鼻や口に触れたときに感染するのを防ぐためだ。十分に流水で洗うこと、石鹸で汚れを落とした上で、噴霧型のアルコール手指消毒剤(インフルエンザウィルス・コロウィルスには有効)を使うのが望ましい。
●「うがい」も忘れずに
飛沫感染や接触感染で最初に付着するのが咽喉である。混雑した駅や列車・バスに乗車して帰宅したら、面倒がらずに手洗いと「うがい」を行なう。ドラッグストアでうがい薬を購入するのが望ましいが、水やお湯でもしないよりは良い。実はこうした習慣は、保育所や小中学校の方が、子どもへの教育が徹底しているようなので、大人も子どもを見習うようにしよう。
●体調管理「働き過ぎ」は禁物!
こうした初歩的な対応策を取っても、感染リスクをゼロにはできない。ただ呼吸器感染症ウィルスは、体力低下や体調不良によって重症化するので、体調管理が重要である。高齢者や基礎疾患があり体力の弱い人は、特に重症化のリスクがあるので、自身も家族も注意が必要だ。
また一般の労働者も長時間労働や深夜勤務は免疫力を低下させるので、過労を続けるのは禁物だ。特に今の時期、決算期や納期をむかえ現場の業務量が激増する傾向があるが、担当者に無理な残業を続けさせないよう上司の配慮が必要だ。「働き過ぎ」で感染を拡大し重症化を招いてからでは遅い!職場の助け合いが今ほど重要な時はない!(松本誠也)
パンデミック対策を春闘の緊急要求に!
●新型コロナウィルス肺炎
中国の武漢市・湖北省から爆発的に拡大し始めた「新型コロナウィルス」肺炎の感染は、海外にも波及している。WHOの慎重にその表現を避けているが、もはや「パンデミック」の第一歩を踏み出していると言っても過言ではない。
「潜伏期間中の感染の可能性」を専門家が指摘していたにも関わらず、それを無視して「水際対策」に偏った安倍政権の対応は、日本の国内で「中国との接点」が確認できない発病者の続発という事態を招き、完全に後手に回った形となった。
いまや中国渡航と関係のない日本中のどこの地域の事業所の労働者でも、感染のリスクはまぬがれない。
●出勤停止に対する賃金保障を
感染症予防法や労働基準法では、感染症を防止するための「出勤停止」措置を規定している。さらに二〇〇三年の「SARS」や二〇〇九年の「新型インフルエンザ」を経験して、官公署や企業の多くでは、有給の「感染症休業手当」を就業規則に明記するようになってきた。
しかし多くの中小零細企業や、派遣社員、日給月給の非正規労働者については、未整備の状態である。そのため、ひどい呼吸器症状を発症しても、解熱剤や咳止めを服用して就労し、事業所における感染を招いたり、たとえ休んでも「欠勤」の無給扱いになることが大多数である。
感染症が疑われる場合は、事業所が責任をもって出勤停止を措置し、休業中の賃金を補償することが求められる。
●春闘の緊急要求に
今回の春闘ではほとんどの労働組合がすでに要求書を提出済みであると思われるが、今回の新型コロナウィルス肺炎の事態に対応し、緊急に「感染症予防のための出勤停止と賃金保障」を追加要求するべきである。また、すでに要求書の回答が示された企業においても、追加交渉を緊急に要求すべきである。
個別企業だけでなく、地域のすべての事業所について「感染症予防の出勤停止と賃金保障」を行なうよう、労働組合の地域組織が地域の経営者団体や行政組織に要求する取り組みを緊急に提起すべきである。
ナショナルセンターも、政府に対して同様の要求を掲げて、緊急の政労使交渉を行なうべきである。(松本誠也)
〈コロナ危機〉に便乗した「改憲」論を許すな!
新型コロナウィルス肺炎は、国内でも感染者が増加し、国内患者も死亡する事態に発展している。ところが安倍政権やそれを取り巻く右派勢力は、足元の感染対策を見直すどころか「今こそ憲法を改正して緊急事態条項を!」などと見当違いの主張をしている。
●「緊急事態条項」で改憲?
自民党の伊吹文明元衆議院議長は、一月三〇日に派閥の会合で新型肺炎に言及し「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない。」と発言した。下村博文選対委員長も二月一日「議論のきっかけにすべきではないか」と講演で述べた。
衆議院では一月二八日、日本維新の会の議員が、新型肺炎に関連して改憲議論を促進するよう質問したのに対し、安倍首相は「緊急事態条項」をどう位置づけるか「大いに議論をすべき」「国会の憲法調査会で活発な議論を」と答弁した。
今回の新型肺炎への対応は、現行法のもとできちんとした対応をすることが肝心であり、そのさなかに「改憲」を持ち出すような場合ではない。
●「政府専用機」(自衛隊機)を派遣検討
安倍政権は、水際対策ばかり強調し、専門家が指摘する「国内感染対策の必要」を後回しにする一方〈コロナ危機〉に乗じて、あの手この手で自衛隊の出番を作ろうとやっきになっている。
武漢市からの邦人帰還にむけ、チャーター機を派遣したが、当初「政府専用機の派遣も検討する」と息巻いた。政府専用機とは自衛隊機のことである。しかし、政府専用機の座席数は百席と少なく、民間機の二百席の半分であることなどから、これは立ち消えになった。
●防衛省チャーター船に医官
クルーズ船ダイアモンドプリンセス号から感染者が発生し、横浜港に長期停泊することになったが、これに対して防衛省は民間貨客船「はくおう」をチャーターし自衛隊員四十人と医官五人を派遣し、支援にあたるとした。
しかし実際に活躍したのは、各都道府県の公的病院医療スタッフで組織するDMAT(災害派遣医療チーム)の隊員であった。彼らは東日本大震災や熊本大地震などで、緊急にかけつけた経験を持ち、日頃から感染対策を含む訓練を積んでいるのであり、自衛隊に頼らなくても、十分な働きができたのである。
●海自に「病院船を配備」?
あげくの果てには、クルーズ船対策にかこつけて「病院船」の配備を検討すると言い出した。二月十二日の予算委員会で加藤厚生労働大臣は「病院機能を持つ病院船の配備を検討するため各省庁と協議する」と述べた。当然のごとく海上自衛隊への配備が取りざたされている。だが「病院船」の配備なるものは、海外での戦争への対応が前提となるものであり、自衛隊の海外派兵の道をいっそう開く危険な構想である。
今回の新型コロナウィルス肺炎への対応は、二〇〇九年の「新型インフルエンザ」や二〇〇三年の「SARS」(重症急性呼吸器症候群)を教訓として、当時対策に当たり経験を積んだ医療関係者の専門的な知識と経験を総動員するのが最善なのであり、「自衛隊の活用」だの「改憲」だのを喧伝するのは、全くの筋違いである。(松本誠也)