いつもの様に俺は執筆作業中だ
朝から何通か香代子とメールのやり取りをやっている
会っていないときは香代子とメールに幸せを感じていた

なかなかメールが来ないときがあるが、待っている間そわそわしてしまう自分が情けないくらいだ
日に日に香代子に対しての想いが強まっている
まだ何度もあっていないのにだ

そして今日何通目のメールだっただろう、香代子のメールに悲しい言葉が

「あーちゃんごめんなさい
 来週の水曜日だけど・・・うち生理だった
 だから再来週でもいい?本当にごめんなさい」
このメールを見たときに少しがっかりした、来週また会えると思っていたからだ
でもこの場合は仕方ないが、それでも香代子に会いたい気持ちはあった

「ううん、気にしないで良いよ
 仕方ないよ、でも会いたいな」
という様な返信はしてみたものの、本心は違った
そもそも生理だから会えないというのはエッチ前提での話だからだ
別に俺はその状態で出来ないわけではないが、女性は嫌がる事を知っていた

ピロリンとメールの着信音がなった

「会ってもいいけどエッチ出来ないよ?」
想像通りの返答だ

「俺は気にしないけどね」
と軽く返してみた

「ダーメ、再来週まで我慢して」
やっぱりそうだよな・・・
会いたいが我慢するか

「わかった我慢する
 再来週はいつ会えそう?」

「再来週の水曜日なら大丈夫!」
といったやり取りが続くわけだが、この何気ないメールのやり取り一つ一つに幸せを感じる
メール依存ってのはこういうことなのか?と考えてしまう
逆にメールがなかなか来ないと、意味なくそわそわしてしまうのだ

仕方なく落ち込んだまま執筆作業を始めるのだが、ちょっと珈琲を口にするたびに香代子の事を考えてしまう
平日はまだいい、土日は香代子の旦那が家にいるのでメールが出来ないらしい
正直、土日が一番辛いときだ
何をしていても香代子が気になる、携帯を何度も見てはメールが来ていないか確認するしまつだ
メールを送ってもいいけど返せない事が多く、返せるときに返すとは言っていたが待つほど長いものは無い

たまにメールが来て嬉しくなって返信するが、そこから4,5時間返事が来ないと不安になる事も多い
何が不安なのか自分でもわからないのだから、どうしようもないのだ
うちは子供もいないし、浮気公認となってしまったから、何も隠さず大っぴらにメールを打ち返していたのでそれがギャップになっているのかもしれない

夜の22時を過ぎるとメールできたりするのだが、日曜日の夜はちょっと堪えた
メールのやり取りをやっていて突然メールの返信がなくなったのだ
なにかあったんかな?と心配してしまう、結局その日はメールは来なかった
寝るときはいつもおやすみのメールが来てるから不安が増していく

次の日の朝、香代子からメールが来た
心配であまり寝ることは出来なかったが、香代子のメールを見て目が覚めた

「ごめんなさい、寝ちゃった・・・」
とりあえず安心はしたもののモヤモヤは消えない
自分でも抑えきれないこの気持ちをぶつける所が無い
それに昨夜はイライラする出来事もあったのでよけいだった

俺の携帯はスマホを使っているが、突然スマホの画面に「アプリ強制終了」のポップアップが連続で出るようになった
そしてとうとうスマホは固まったまま動かなくなってしまったのだ
ネットでいろいろと調べたら初期化をするしかないとの事
正直イラっとしてしまったが、このままではメールを受け取ることも出来ないとおもって思い切って初期化をしたのだ
初期化の影響で今までのメール送受信は消えてしまった、画像に関してはSDに保存されているので無事だったが
かなり落ち込んだ

「香代子ごめん、昨日の夜にスマホが固まってしまって初期化したら今までのメール消えちゃった・・・
 せっかく香代子から好きとか大好きとかいっぱい送ってくれてたのにごめんね
 昨日の最後のメールなんて送ってたっけ
 たしか、香代子から毎日でも来てほしいなってメールだったから
 俺がデート代が続かないよ~って送ってたんだよね
 そしたらメールが来なくなったから心配になったんだよ」
といった具合にちょっと長いメールを送ってみた

少ししてから香代子から返事が来た

「ごめんね・・おやすみのメール送る前に力尽きて寝ちゃったから
 今からいっぱいメールするし、いっぱい好きって言うから気にしないでいいよー」

「嬉しいよ、これからはいっぱいメールしようね」

「あーちゃん、明後日には会えるね、早く会いたいなー」
このメールが来てから俺は土日のモヤモヤを何とか解消したかった

次の日に思い切ってメールを送った
「香代子~声が聞きたいんだけど電話して良い?」

「うん、いいよ」
とい事で早速電話を掛ける
香代子と電話で話をするのは初めてだったので少し緊張していた

「もしもし、どうしたん?」
(ん?香代子ってこんな声だったっけ?)

「ううん、声が聞きたかっただけなんだけどね、今何してたの?」

「今、仕事してた」
やっぱり会っている時と声の印象が違うのか
何か違和感があったのだが、電話だと香代子ってこんな感じなんだなと思ってしまった
香代子の声は小さく、少し低めに聞こえるのだ、香代子の事を知らない状態だとちょっと機嫌悪いと思ってしまう

「香代子って電話だといつもそんな感じなん?」

「そんな感じって?」

「ん~ちょっと声が低く聞こえるから機嫌悪いのかなって思っちゃうほど」

「誰にでもこんな感じだよ、いつも聞き取りにくいって言われる」

「そうなんだ、電話って苦手?」

「うん、電話もだし、実はメールも苦手・・」

「そうなん?」

「うん、でもあーちゃんには頑張ってメールしてるよ♪」

「ありがと、やっと明日会えるね、早く会いたいよー」

「明日まで我慢だね♪」

「あーちゃんごめん、仕事やっていい?」

「あ、ごめん、んじゃね・・」

ってな具合で、声が聞けたのは嬉しかったのだけど、俺からの電話って嬉しくないのかな?って考えてしまった
会っているときはめっちゃテンション高い香代子なんだけど、結構ギャップがあるもんだな

とりあえずメール送っておこう・・・

「香代子の声聞けてよかった、明日だけど30分くらい離れたところにもっと綺麗なホテルあるんだけど、この前の所とどっちがいい?」
1時間後に返事が来た

「どっちがいいかな~、でも早くイチャイチャしたいから近いところがいい♪」

「んじゃこの前と一緒の所にしよ」

なんかたまらなく香代子が愛しくなってきて今の気分をメールで送りたくなってきた

「大好きな香代子へ
 俺は香代子と出会えてよかった
 まだ出会ってそんなにないけど昔から知っている様な気がするよ
 もしかして前世で一緒だったりして(笑)
 もう少し早く出会っていたなら一緒になっていたかも知れないと考えるとちょっと悔しいな
 香代子と一緒だったら、もっと楽しくて幸せな生活をしていたかも('∇')
 今は人に言えない関係だけど、世界中の誰よりも愛し合う二人になれたらいいなって思っているんだけど香代子はそこまでは・・・・って思っちゃうかな?
 でも香代子が大好き
 お互い歳をとっても今と変わらなく香代子に好きって言われたい♪」
自分でこんな文章をメールで送ったのだが・・・・読み返してみると、くさいなって思ってしまう

結構、重いメールだったかなと思いつつ香代子からの返事を待った

「どうしたん!照れるやん
 そんな風に思ってくれてほんと嬉しい
 今までこんなに言ってくれる人いなかったから
 ありがとー
 あーちゃん大好きだよ」
正直、送ってよかったーって思った

そして長い長い2週間が終わり2回目のデートの日となった
俺は平然を装ってテレビを見ていた

つい今しがた由美子さんに驚きの発言をされたのだ

「ねぇ篤彦さん・・・・彼女出来た?」
帰ってきて由美子さんが珈琲を持ってきたときだった
俺はその言葉を聞いて動揺を隠せないでいた

「な、なんで突然そんな事を聞くの?」
どうしても言葉を噛んでしまう、でも表情は平常を保っていた・・はずであった
その様子を見ていた由美子さんは珈琲をカップに注ぎつつ言った

「篤彦さん、私が結婚してほしいと言ったときに言ったでしょ?
 私は篤彦さんに好きな人が出来て浮気されても構わないって、それが結婚の条件だったんだから別に隠さなくてもいいよ
 それより・・・その彼女は可愛いの?」
俺は由美子さんの顔から視線をはずせなかった
忘れていた、由美子さんと結婚の話になった時にそんな事を言われた覚えがある
しかし、その時だけの言葉だと思っていた、まさか本当にその条件をここで由美子さんに言われるとは思わなかった
確かに結婚の話をされたときに言われた記憶はある
(好きな人が出来て浮気しても良いから結婚して・・・か)

「由美子さんには参ったな・・・」
俺は苦笑いをしながら由美子さんの入れた珈琲を一口飲んだ
由美子さんも座り珈琲を口にする

「で、可愛いの? いくつの人?」
そこからは質問攻めだった
由美子さんの質問に答えられるところは答えていった

出会ったきっかけや、年齢などいろいろだ

「へー、若い子を見つけちゃったんだ~
 でもデート代はお小遣いの範囲でしてよ、家計からは出さないからね
 あ、あと彼女さん人妻でしょ?絶対にばれない様に注意してよ」
由美子さんの話を聞きながら俺は不思議な感覚でいた、目の前で話をしているのは俺の妻だよな?
なんか母親に話をされている気分だった
そんな心境を悟ったのかどうか分からないが由美子さんが呟いた

「んとに・・子供の恋愛を心配する母親の気分だわ」
そう言いながら由美子さんは笑っていた

俺は由美子さんを見ながら考えていた
(由美子さん本気なんかな、ちょっと聞いてみるか)

「ねぇ由美子さん俺が浮気してるの嫌じゃないの?」

「別に嫌じゃないよ、私が篤彦さんのやりたいこと我慢させていたからね」
普通の夫婦ならきっと今頃、怒鳴り声や食器が飛び交っていただろう
なのに、うちの夫婦ときたら浮気公認って、どこの世界にこんな夫婦がいるんだろうか

「ん~由美子さんは寛大だね~、本当にお母さんに思えてきたよ」

「あら、今頃知ったの?お母さんに隠し事はできないのよ」
俺はもう笑うしかなかった

あとはいつも通りに俺はテレビをぼんやり見ていた
由美子さんは日課のネットで漫画を読んでいる
そして普通に時間は過ぎて行った

次の日の朝、俺は体のあちこちが痛いのを感じながら起きた
筋肉痛だ・・・歩くのも痛い
携帯を見るとメールが来ていた、もちろん香代子からだ
メールをくれるのは香代子しかいないのですぐに分かる

「あーちゃんおはよ
 昨日はありがとね
 今度いつ会えるかな~」
俺はすぐに返信した

「いつでも大丈夫だよ
 大丈夫な日ってある?」
返信した直後に由美子さんが起きてきた

「篤彦さんおはよ、今日雨だね、もし良かったら駅まで送ってくれると嬉しいな~」

「ん?いいよ」
いつもと変わらない朝だった
昨日の今日だったので、もしかしたら由美子さんの態度が急変するかと思ったのだったが

由美子さんを駅まで車で送って帰る途中に香代子からメールが入った

「今週は難しいから来週の水曜日でもいい?」
俺は家に帰り着くなり返信した

「大丈夫だよ、んじゃ来週の水曜日に」
俺はメールを送ってから執筆作業を始めたが、どうも落ち着かない
書いている途中でも香代子の事が気になってしまう
自分で思っている以上に香代子の事が好きになってしまったようだ


しかし・・・昨日の件、香代子に言ったほうが良いのかな
俺は車で家に帰る途中だった

さっきまで香代子と一緒にいた
もちろん普通の関係ではない、いわゆる不倫というやつだ
最初は会って話しをするだけと考えていたし、今回限りと思っていた
香代子は子供を迎えにいくため、先に帰ったが別れ際に香代子に言われた
また、会おうねと

あと数分ほどで家に着くところまで来たときに香代子からメールが来た

「あーちゃん今日はありがと
 うち、あーちゃんの事大好きだよ
 また、近いうちに会いたいな」
何故かこんなメールが嬉しい
結婚して7年になるが久しぶりにドキドキしている
今までこんな気持ちになったことはない

正直な所、由美子さんとは大恋愛をした訳ではない
俺が精神的にまいっている所に現れて支えてくれた人だ
そもそも俺が引きこもりだったのでインターネットやチャットで外の情報を得ていた
その時にチャットで知り合ったのが由美子さんだった
顔が見えない分安心していろいろと相談したりしていて、いつも心配してくれていた
それがきっかけとなって由美子さんが会いに来てくれるようになったのだけど
いつの間にか同居になっていた

ある時由美子さんが実家に荷物を取りに行きたいと言い出したので一緒に行くことにした
由美子さんの実家は天草、車で行くことにした
朝一に出たのが結局着いたのは夕方でもう日が暮れようとしていた
由美子さんの実家には複数の車が停まっていた

「あれ?今日って何かやってるん?」
俺は由美子さんに聞いた

「今日帰るって言っておいたから親戚が来てる」
由美子さんは当たり前のように言っているが
俺からすると荷物を取りに帰っただけで親戚が来るのだろうかと半信半疑だった
車から降り、由美子さんの後ろから俺は付いていく
由美子さんが玄関を開け、ただいまと言いながら奥へ向っていった
俺も由美子さんに遅れまいと一緒に歩く
リビングのような所に出た瞬間、大きな声と同時に俺は知らない人に囲まれた
俺は恐怖のあまり固まって声も出ない状態になってしまった
それを見ていた由美子さんが慌てて寄ってきて周りの人を上手く言いながら離して行く

「ごめんね、篤彦さん、大丈夫・・・」
由美子さんが心配そうに声を掛けてきた

「あ、うん、大丈夫、ちょっとビックリしたけど」
俺は知らない人に近寄られると恐怖で体が硬直してしまう、いわゆる人間恐怖症だった
この時期の俺は病院で治療を受けるほどの鬱もあったので、由美子さんがいつも傍で気を使ってくれていた
由美子さんは俺をテーブルの真ん中に座らせて横に座った

「おーし、由美子ちゃん達も来た事だし宴会の再会だー!」
一人の男性が仕切るように言い出した
今叫んだ人は由美子さんの父方の兄弟の子供で従兄になるそうだ、普段は漁師をやっているようで声が大きいらしい
宴会も中盤ぐらいだったが俺はまだ一言も喋っていない中、ちびちびお酒を飲みながらお寿司をつまんでいた所に事件は起きた

「なぁ由美子ちゃん、良かったなーこんな良い婿さん見つけて、これで安心だよ」
それを聞いた俺は由美子さんを見た
由美子さんはばつが悪そうな顔をしながら俺に向って苦笑いをしている

「あ、あ・・まもるにいちゃんその話しはまた後で・・・・」
由美子さんはみんなに聞こえるようにそう言ってその場を収めたのだが
俺はこの状況を不思議に思っていた

「ねぇ由美子さんこの宴会って何の宴会?少なくとも由美子さんが帰ってきたからって訳じゃないよね?」
俺は現状を確認したいのもあったので、そう由美子さんに聞いてみた
由美子さんは少し考えて言葉を選んで話し出そうとしたときだった
由美子さんの母が突然現れて俺に向って話しだした

「篤彦さん、こんな娘だけどよろしくお願いしますね」
由美子さんの母は優しい笑顔を浮かべ俺に手を差し出してきた
俺の頭は混乱していた、さっき言われた婿さん、そしてお母さんからの娘をよろしくという言葉
そして親戚が集まっているこの宴会・・・・
由美子さんの顔を俺はじっと見る
その視線を感じた由美子さんは観念したように話し出した

「篤彦さんごめんなさい、黙っていたのだけど、こっちに帰ってくるって連絡をした時に結婚したい人も連れて行くって言ってしまったの・・・だから」
俺の頭は真っ白になってしまった
確かに由美子さんには支えられて助けてもらっていたけれど、由美子さんをそんな目で見たことはなかった
良い人ではあるので、全拒否するほど嫌ではないけれど、あまりにも唐突すぎてパニックになっている

「え・・・?あ・・あの、由美子さん・・・これって・・」
由美子さんは俺を別の部屋に連れて行き、目の前で土下座した

「篤彦さんお願いします、私と結婚してください。
 私の事結婚相手として見てくれてないのは知っています。でも私はこのまま篤彦さんを放っておけないの」
俺は由美子さんのその姿を見て今まで献身に付き添ってくれたことや、支えてくれた事を思い出していた
それに今の俺では、正直良い人にめぐり合うことも難しいと思っていた

「由美子さん頭を上げて」
俺は由美子さんが顔をこちらに向けるのを待ってから続けて話した
「俺は由美子さんに対して恋愛感情が無い
 無いけれど、家族としてなら好きになれると思う、それでも良いなら・・・いいよ」

それを聞いた由美子さんは涙を浮かべていた

「本当に良いの?恋愛感情が無くてもいい、家族として思ってくれるだけでいい、私が篤彦さんを支える
 その代わりだけど、篤彦さんに好きな人が出来て浮気したとしても私は構わないから」
俺はその言葉に驚いた、浮気しても良いって結婚してくださいと言われたばかりでそんな事言われてもと思っていた

「由美子さん浮気して良いって言われても、俺にそんな人見つけるほどの勇気はないよ
 だって知らない人に声掛けれないんだから」
なんか・・・はめられた感満載だけど、良かったんだろうかと考えていた
この時の俺は精神的に不安定で冷静な判断も出来ていなかったと思う
それでもなんだかんだと7年の間、由美子さんと生活をしていきながら人間恐怖症を克服するまでに至ったのだった

そして今、香代子と出会ってしまった
恋愛感情が芽生えてしまった相手と出会ってしまったのだ
俺は自宅の玄関を開けて家に入った時だった

「おかえりなさい」
俺はかなり驚いた、目の前にいたのは由美子さんだったからだ
香代子と会ってきたばかりで由美子さんの顔を真っ直ぐに見れないでいた

「た、ただいま・・・今日は早いんだね」
そう、由美子さんはいつも夜8時くらいにしか帰ってこないはず
なのに今日に限って18時に家にいるなんて驚かないほうがおかしい

「ええ、今日は仕事が早く終わって帰ってきたのよ
 篤彦さんどこか行っていたのね」
由美子さんは変わらない笑顔でそう言ってきた

「うん、ちょっと出てた」
俺はリビングに向かい香代子に帰ってきた事を告げるメールを送った
由美子さんはキッチンに向いつつ俺に珈琲入れようかと言ってきたのでお願いし俺はテレビの電源を入れた
数分後、由美子さんが珈琲を手に戻ってきたのだが、俺の顔を見て一言

「ねぇ篤彦さん・・・・彼女出来た?」
シャワーの音が聞こえる

見た目24,5歳頃の長い髪の女性がシャワーを浴びている

「萩原さ~ん お風呂はいろ~よ~」
女性の名前は香代子、漫画家の卵が集うイベントで俺が出会った女性だ
この若さで子供がいる人妻なのだから驚く
世の中不公平だよと俺は思ってしまうのだが
何故、その女性と一緒にお風呂に入ることになったのか
香代子の誘いで一度会う事になり、そのままこういう状況となっているのだ

俺は、萩原篤彦 売れない作家で来年40歳の中年だ
見た目はよく30代前半と言われるのだが・・・・社交辞令も多くふくまれているだろう

「今行くよ~」
俺は香代子の呼びかけに答え風呂場へと向った
風呂場のドアを開けると目の前には香代子の美しい体が目に入った

「綺麗な体してるね」
俺はありきたりと言えばありきたりの言葉を香代子に言ってみた

「え~綺麗じゃないですよ、痩せないとヤバイです」
香代子は俺を見ながら笑顔で答えた
女性はいつも痩せなきゃって言うけれど、俺から見れば十分だと思う人のほうが多い
あまり痩せすぎは嫌いだからだ
膝枕したときにほんの少し弾力があるくらいが丁度言い
この弾力が微妙で口では言い表せないのが残念だ
だからと言ってふくよかな人も苦手である

香代子はスタイルが良く俺としては今のままがとても良いのだが本人からすれば理想と違っているのだろう

「香代子さんは今のままでいいよ」
俺は香代子の痩せなきゃという言葉に返してみた
香代子は俺の言葉に照れながら、それでも痩せなきゃとまだ言っている

俺が湯船に先に浸かっているとあとから香代子が入ってきた

「あ~あったかい、そうだ!いい事思いついた」
香代子がそう言うと後ろ向きになり背中を俺に引っ付けてきた
(この体勢ってなんかいいな)
俺は香代子を抱くように腕を回し引き寄せた

「これっていいよな、お互いあったかいし、すごく仲良しっぽい」
香代子の後ろからささやくように言った
それを聞いた佳代子は俺の胸にもたれかかって嬉しそうにしている

だけど俺は心にあった疑問を聞いてみることにした
「ねぇ香代子さん、ここまで来て聞くことじゃないんだけど一つだけ聞いていい?」
香代子は後ろ向きのまま「うん」と答えた

「香代子さんも結婚してるし子供もいるんでしょ?
 俺とこんな仲になっても良かったの?」
どうしても聞きたかった事だが実際に口に出してみると緊張する
香代子は無言で少し顔を俯かせてなにやら考えている
ちょっと聞いちゃいけないことだったかなと後悔してしまったが、その後悔もすぐに消えた

「んとね、うち旦那とは2年くらい夫婦生活ないんよ
 それに、もし旦那がしたいって言っても絶対に嫌だからしないし
 きっと旦那から言ってくる事はないから
 だからかな、私も女だし欲求不満にもなるもん」
香代子は真面目に答えてくれた
俺はそれを聞いて少し驚いた、2年もの間、夫婦関係がないとは、そんな夫婦もいるんだな
俺は・・・半年くらいだから、そう考えると長いな

「2年間よく我慢できたね」
思ったことを率直に言ってみた

「したいと思わなかったし、でも萩原さんに会ってからはちょっと変わったかな
 でも誤解しないでね、誰でもいいってわけじゃないから、萩原さんだからなんだからね」
香代子はちょっと照れながら言った

「ねぇ萩原さん上がってイチャイチャしよ」

「ん?そだね」
香代子に言われ、俺と香代子は上がってお互いをタオルで拭き合い、香代子はそのタオルを巻いてベッドへ走っていった
俺はゆっくりとベッドへ向うと部屋の明かりは少し暗く、香代子はすでにベッドの中に入っていた
ベッドに入りながら俺は悩んでいた
(ん~ここからどうしよう・・・)
香代子はベッドの布団から顔を半分だけだして俺の方を向いていた

「萩原さん・・・・キスして」
その言い方や仕草がとても愛しく思えてきて、俺は香代子にキスをした
            ・
            ・
            ・
俺は仰向けになって息を整えていた
それを見ていた佳代子は俺の顔をじっと見ている

「萩原さん、わたし・・萩原さんの事好きになっていい?」

「ん?好きだから俺とエッチしたんじゃないの?」

「えへへ・・うん♪」

「ねぇ萩原さんの呼び方変えていい?」

「いいよ、なんて呼びたい?」

「えーと・・・萩原さんいつもなんて呼ばれてるの?」

「俺?俺は親しい人からは、あつひこさん、あっちゃん、あっくん、あたりかな」

「じゃぁさ、誰も呼んでないのがいいな・・・・そだ!あーちゃん!」

「あ・・・あーちゃん?そりゃまた変わった呼び方だね」

「誰かに呼ばれたことある? いや?」

「んー呼ばれたことないし、香代子さんがそう呼びたいならそれでいいよ」

「んじゃ、あーちゃんで♪」

「香代子さんはなんて呼ばれたい?」

「うちは・・・呼び捨てで香代子がいい」

「んじゃそうしよう」

二人でたわいの無い話をしながら時間が過ぎていく
俺もこんな無邪気な彼女に惹かれ好きになっていっているのがわかる

「あーちゃん大好き」
香代子はそういいながら俺に抱きついてきた
俺も香代子を抱きしめて軽くキスをした

「ねぇ、あーちゃん約束してほしい事があるんだけど・・・いい?」

「なに?」

「あのね・・・うち以外の人と浮気しないこと!」
浮気相手から浮気しないでって面白い

「わかった、香代子以外の人とはしないよ、香代子もだよ?」

「もちろんだよ~、あーちゃん絶対浮気しちゃダメだからね」
香代子はそう言いながら、長いキスをしてきた

「あーちゃん、もう一回しよ?」

「香代子・・・何回するき?」

「10回!」
俺は思わず勘弁してくれと思った
香代子はニコニコしながら俺の顔をみて笑った

「じょ~だん、でも半分冗談じゃないよ」

「どっちだよ・・」
俺は香代子を抱きしめながら言った
俺は相変わらず執筆作業を行っていた。
外は雲ひとつ無い晴天だ、こんな日は思いっきり外で遊びたい・・・・のだが
今日に限ってネタが浮かんで執筆に集中している
こんな時はいつも携帯の音も出さないようにしていた。

「ん~、結構書けたな」
背伸びをして原稿を読み直しながら珈琲を飲もうとした時に携帯のランプが点滅しているのが目に入った。
携帯を手に取り画面を見ると、メールが来ていたので
また、迷惑メールだろうと思いつつ内容を確認してみた
「え?!」
驚いたというより忘れていた
以前、商店街で出会った香代子という女性からだったのだ

「萩原さん、覚えていますか?
 イベントで連絡先を交換した香代子です
 連絡するといって1ヶ月もしなくてすみません(;´д⊂)
 あの後、自分がしたことを思い出して恥ずかしくて、なんてはしたない事をしてしまったんだろうって自問自答してしまいました(笑)
 でも、この気持ちが本当かどうか連絡するのを1ヶ月待ってみようって我慢していたんですよ
 それで、1ヶ月我慢してやっぱり萩原さんの事が気になったのでメールしました
 もし、少しでも私の事が気になってくれているのであれば返事をください
 待ってますね」

俺は驚いた、メールが来た事もだが何より内容だ
何度読み返してもこれは俺に気がある!!
今、鏡を見たらきっと俺はだらしない顔になっていることだろう
由美子さんが見たら何にやけるてるの?と突っ込まれる絶対に平手で喉に突っ込まれる・・・・

だが!
返事は返そう

「香代子さん、メールありがとう
 まさか本当に連絡をくれるとは思いませんでした
 凄く嬉しいですよ
 嬉しいのですが、私は来年40ですし、しかも既婚者ですよ?
 独身だったら喜んで飛びつくお話なんですけどね
 それでも良いというのであれば話は違いますが(笑)」

なんともずるい内容の返信をしたのだが、どうなんだろうか
数分後メールが返って来た

「萩原さん、返事ありがとうございます
 年齢なんて気にしませんよ、そもそも私年齢かなり上の人が好みですし(笑)
 それと・・・言い忘れていたのですが私も既婚者なんですよ
 だから萩原さんが気にするような事は一切ないですよ
 もし萩原さんさへ良ければ今度会ってお話しませんか?」

なんと!!
俺はもう仕事どころではなかった
彼女のメールを見てからなんというか嬉しいのはもちろんなのだが
何とも言えない胸の高鳴りを感じていた
だが心のどこかで嫌悪感というのがあった、それはもちろん私が既婚者であること
彼女も既婚者とは書いてあるが、本当にこんな出会いがあっていいものだろうかと考えてしまう
い、いやこれはいけない・・・
しかし、メールで断るのは失礼だし、一度会って話をしてみてから、そうしよう
と自分の中で勝手に会う事になっているのだが・・・

「とりあえず返信をしなくちゃな・・・」
彼女から来たメールを開き返信メールを打ちだした

「わかりました、一度お会いして話をしましょう
 都合の良い日ってありますか?
 私は平日であれば何時でもかまいませんよ」

打ち終わり送信ボタンを押した、俺は画面に出る送信しましたの文字をじっと見つめていた
本当に良かったのだろうか、由美子さんが知ったらどう思うだろうか
いろんな事が頭に浮かんでは消えていった
そんな事を考えているうちに返事が来た
内容は簡単だった
来週の水曜日に会いましょうと・・・

その日はあっという間にやってきた
この日が来るまで由美子さんにはこの事は伝えていないというより言えない
約束の時間は朝9時
由美子さんが仕事に出るのを見送ってから出かけることにした
それでも十分に間に合う
俺は支度を終えると車に乗り待ち合わせの場所に向った
1時間程走っただろうか待ち合わせの場所に着いた
時間まであと10分あるが彼女はまだ来ていないようだ、この待つ時間が緊張する
一度会っているのだけど理由が理由だけに鼓動が高鳴るのがわかる

数分待つと彼女が来た
「おまたせしました~ 待ちました?」
彼女はとっても明るい感じで寄ってきた

「いえ、俺もさっきついたばかりなので」
なに俺は緊張しているんだ・・・

「あ、どこに行きますか?この辺よく分からないのでナビしてもらっていいですか?」
彼女は俺の車の助手席に乗り込みシートベルトを締め終わり俺のほうを向いた

「どこでも良いですよ、萩原さんの行きたい所ってありますか?」
満面の笑みを浮かべながら彼女は言うので何を言っても大丈夫な気がしていた
俺も男だストレートに言ってしまうか、それとも初めてだからここは食事から行くべきか悩んでいた
いやいや、時間は少ないからどうせなら二人っきりになれるカラオケか・・・・
いろんな事が頭に浮かんではどこにするか決めかねていたのを彼女の助け舟が入った

「萩原さん、私からこんな事を言うと引くかもしれないのですが,もしよければ・・・
 二人っきりになりたいので、ホテルは駄目ですか?」
彼女が顔を赤らめながら言ってきた
俺は思わず「え!?」と声を上げてしまったのだが、女性からそのような申し出を受けて断るほど馬鹿ではない

「香代子さんがそれでよければ・・・」
俺も少し緊張気味に答え、彼女の反応を見る
彼女の笑顔を見て小さくガッツポーズをしたのは見られていないと願いたい

「じゃ、じゃぁ行きましょうか、どこにあるかご存知ですか?」
正直こんな若い女の子とホテルだなんて良いのだろうか・・・この時俺は頭の中から由美子さんの存在を完全に消し去っていた
一人の男としての本能なのか、それとも若く綺麗なこの女性に惹かれてしまったのだろうか
(えーい!もうどうにでもなれ!)
彼女は1つだけ近くのホテルを知っていたので、そこへ行くことにした

ラブホテルというのは何故こうも山の中とか人目につかないところに上手く建てているのだろうか
車で中に入ると部屋毎に駐車場が分かれている
昔ながらのホテルという印象だが、問題は部屋だ
こういうホテルは部屋がやたら汚かったりするのだが、来てしまったからには入るしかない
俺自身、駐車場が部屋別の所は初めてだったので、とりあえずランプがついている駐車スペースに車を停め
書いている部屋番号305号室と書かれているのを確認し彼女と一緒にエレベーターに乗るのだが、やたら緊張する
彼女のほうもさっきとは打って変わって静かだ
お互い緊張しているのだろうか
エレベーターの扉が開いたのを確認し俺が先に廊下へ出て部屋を探す

「あ、ここですね・・・」
部屋番号は305号室で合っているが、何故かドアが開いていて奥に見えるベッドのシーツが乱れている

「あ、あれ?準備中だったんですかね?」
俺は周りを見渡しホテルの従業員を探した
2部屋隣から掃除機の音がするので、そこへ向い声を掛けた

「すいません305号室なんですが、まだ準備終わってないのですか?」
従業員は声をかけられたので俺のほうを向いたのだが、何か悩むようなそぶりを見せたかと思うと、こちらへ向って歩いてきた
近くに来て答えてくれるのかと思ったのだが俺の横をすり抜け廊下に出ると同時に大声で話し出した

「佐々木さ~ん 305号室ってまだ終わってませんよね?」
佐々木と呼ばれた女性はこちらに向き直り俺達をみると声を掛けてきた

「お客さん305号室に車を停めたのですか?準備中のランプが点いていたと思うのですが、お手数ですが部屋番号のランプが点いている所へ停め直してもらってから、もう一度部屋に入ってもらって良いですか?」
俺は一瞬固まってしまった
どうやら準備中のランプが点いているのに部屋が使えると勘違いして車を停めてしまったらしい

「香代子さんごめん、どうも部屋の準備が終わってないみたいだから車に戻って部屋番号のランプが点いているところに停めなおさないといけない」
物凄く恥ずかしかったが、こればかりは言うしかない
彼女を見ると納得したらしく俺の後に着いて来た
エレベーターに乗って下に行く途中、二人で顔を見合わせ思わず笑ってしまった

「いや、すみません、私が間違ってしまったみたいで」
俺は照れながら説明した
彼女はクスクス笑っている
こんな失敗をしてしまったが、これをきっかけに俺も彼女も緊張が解けた
俺は部屋番号のランプがついている所へ車を停めなおし改めてエレベーターで部屋に向った
部屋に入ると少し煙草の臭いがしてきたが、そこまで気になるほどではない
1つの部屋に大きなベッドとソファー、ガラスのテーブル、液晶の大きなテレビが目に入った

「結構広いね」
俺は部屋を見渡し彼女に聞こえるように言った

「ほんと、それに結構綺麗」
彼女も部屋の感想を言っていた
先ほどの事でお互い打ち解け、言葉も軽くなってきた
彼女はお風呂場へ向い、「浴槽ひろ~い」という声が奥から聞こえた

「萩原さん、お風呂はいるでしょ?」

「あ、入る」
彼女はその言葉を聞いて顔だけを風呂場から覗かせ悪戯っぽい顔を見せていた

「じゃ、後で一緒に入ろ♪」
彼女は無邪気な言い方なのでいやらしく聞こえないのがまた良い
そして浴槽へお湯を溜める音がしてきたので
俺は上着を脱ぎソファーの上に置き、そのソファーに腰掛けた

【第2話 再会 END】