【271】からのつづき
6年ぶりに降り立った宮島では、猛暑の影響か9月になって地上に出てきた蝉たちが、戦後80年を迎えた広島の空に向かって命惜しむように鳴き続けている。
前回訪れた時は遅い時間だったせいか観光客が少なく、店じまいした屋台の鉄板を舐める鹿の姿にのんびりした気持ちになったが、今回は厳島神社参りを終えて船着き場に戻る人の波をかき分けて進む。
途中何度も鹿と一緒に撮ってくれと欧米人観光客からスマホを手渡されながら厳島神社に辿り着き、頭を下げ手を合わせて宮島を再訪できたことに感謝する。

お参りを終えて、さて穴子と牡蠣で1杯やろうと土産物屋や飲食店の並ぶ通りを歩くと、17時を過ぎているせいか半分近くの店は閉店の札が下がっており、残りの店も若いカップルや家族連れ、外国人観光客で賑わっていて、独り徳利を傾ける雰囲気ではない。
これは広島に戻って、駅西あたりで1杯やるほうがよさそうだと思い、そのまま船に乗って宮島口に戻る。
1日乗車乗船券を持っているから、広電なら追加料金を払わず広島駅に戻ることができるが、すでにモトは取ったし、来た路線を戻るのもつまらないので、6年前と同じく少し歩いて宮島口駅からJRに乗った。
(つづく)