【266】からのつづき
駒生営業所から乗り込んだ上三川行きは、宇都宮駅行きのすぐあとに発車したためか空いており、私のほかに通路を挟んだ向かい側に若い夫婦連れが座っているだけ。
お2人は先ほどの800号車の車内でも通路向かいの窓を背にした席に並んで座っていたので、私同様に駒生営業所からすぐに引き返したことになる。
もしやと思い、「失礼ですが、先ほど宇都宮駅前から駒生営業所行きに乗られてませんでしたか?」と尋ねてみると、大阪出身の旦那さんがバス好きで、かつて世話になった元大阪市交通局の800号車に乗るのが目的だったとのこと。
やはりそうだったのかと思いつつ、少しばかり話をさせていただいていると、いま奥さんのお腹には赤ちゃんがいると教えて下さる。
行きのバスでも旦那さんがしきりに奥さんのお腹をさすっていたので、妊娠されているのだろうかと微笑ましい気持ちになっていたが、他人に観察されていたと思うと気味が悪いだろうから、「そうでしたか。それはおめでとうございます。お子さんもバスが好きになるかも知れませんね」と申し上げると、奥さんが「いや、大丈夫です。女の子なんで」とキッパリ。
バス好きになる心配はない、という正しい母心だなぁ、と思いつつ、うちの長男も産まれる前に医者から女の子と伝えられていたことを思い出す。
もちろんそんなことは口に出さずに、「このあとも楽しんで下さい」と述べ、先ほど800号車の車窓で気になった建物を見るため作新学院の手前でバスを降りる。
外は30度を超えており、身重の奥さんにはバスの乗り降り辛いだろうと思いながら、目的の建物の前に。
栃木特産の大谷石を使っていると思われる蔵のような建物だが、面白いのはタクシーの営業所として使われているところ。
宇都宮駅周辺は、「大谷石文化」として日本遺産になっており、国の重要文化財に指定されているカトリック松が峰教会をはじめ複数の大谷石建造物を目にすることができる。
せっかくだから中に入ってタクシーをお願いして入り口のベンチで待たせてもらおうかとも考えたが、今回は古バスウォッチが目的なので、先ほど降りた停留所に戻り、炎天下で次のバスを待った。
(つづく)