今年4蔵目の酒蔵巡りは、2020年11月以来の訪問となる東京都福生市の田村酒造場さん。
前回は、「駅からハイキング」のコースに含まれていたこちらに10分ほど立ち寄るにとどまったが、今回は1時間を超えるしっかり系の酒蔵見学。
ちなみに前回訪問時の模様はこちら。 田村酒造場さんでは、酒造り期間以外の営業日に、10~15人単位での団体に限り1組の蔵見学を受け入れている。
1~5人単位での参加については、月1回土曜日に設定される少人数向けの蔵見学に申し込むよう案内されているので、そのうち行こうと考えていたところ、地元飲食店のオーナーNさんがお誘い下さり、常連さんたちとご一緒させていただく運びとなった。
小雪チラつくJR青梅線福生駅から10分ほど歩き、田村酒造場さんに到着。

前回訪れたのは11月だったので、蔵の前に掲げられた緑色の酒林が仕込み始めを伝えていたが、今回は3月なので煉瓦煙突の色に近づき酒が熟成していることを感じさせる。

Nさんを含めて13人の参加者は、田村酒造場さんの営業担当者の引率で蔵見学をさせていただく予定だったところ、急遽ご当主の第16代田村半十郎氏にご案内いただく幸運に恵まれた。
まずは酒林のご説明に始まり、続いて脇を流れる玉川上水から取水した田村分水をご案内して下さる。

玉川上水からの分水は流域にいくつか見られるが、一民間私有地のために引かれているのはここだけとのことで、江戸時代からこの地で代を重ね、天領でもあった福生で名主などを務めた田村家の格を感じざるを得ない。
田村分水は、酒造りそのものに使うのではなく、精米を行うための水車を回す役割などを担ったそうで、水車小屋も酒蔵や煉瓦煙突などと並んで、国の有形文化財に登録されている。
その時のエピソードを第十六代半十郎氏が軽妙な語り口で伝えて下さり、単なる酒蔵まわりに留まらない幅広い話の数々に寒さを忘れる。
ちなみに写真の左側の機械は、蒸した米の冷却機で、ここを通った米はエアシューターで仕込みエリアに運ばれる。

ホーロータンクが並ぶエリアで酒造の基本について復習しつつ、酒を醸し出す酵母の気持ちになった喩え話を交えた半十郎氏独自の説明に蒙を啓かれる。
皆さんがそれぞれに時間を過ごされている間に半十郎氏とお話をすることができたので、2000年代に当時の立川グランドホテル(現・ホテルエミシア立川)で開かれていた東京都酒造組合主催の「品評会出品酒を味わう会」に出席したことがあるとお伝えすると、「あぁ、やってましたねぇ」と昔を思い出すようにおっしゃる。
今は開催されていないそうで、当時日本酒に目覚めていなかった私も酒を目当てに参加したのではなく、勤めていた新聞社の上司に出向くよう指示を受け、翌日記事を書いた記憶があるので要は取材だった。
しかし、そこでの体験が今の酒蔵逍遥人生につながる分岐点のひとつになったような気がする。
出品酒は、一般への流通やビジネスを前提にせずに醸されるので、香りや甘さなどの要素が強すぎるぐらいに個性を主張してきて、普通に呑むには、ちと濃ゆい。
裏を返せば、それぞれの酒蔵の個性が最大限引き出されているので、当時25歳で日本酒経験の浅かった私にも違いが分かりやすかった。
そんなことを思い出していると、蔵見学も終了時間を迎え、参加者一同半十郎氏にお礼と拍手を捧げて田村酒造場さんをあとにする。
地元に戻って、Nさんのお店で田村酒造場さんの日本酒と料理のペアリングを楽しむ時間に突入。

Nさんはワンオペで料理を整えるだけでなく、燗のリクエストにも応えていて忙しそうだが、客にも酒のプロが交じっており、燗酒のサーブなどを手伝っているのが微笑ましい。