【106】からのつづき
快速サウンドコニファーは高尾駅を発車し、6日前に「あずさ」で辿った小仏峠を登っていく。
車両は毎日世話になっている何の変哲もない通勤電車で行楽気分は湧かないが、JRと富士急行の乗務員が交代する大月まで中央本線の駅には停まらないというところに、富士急ハイランドで開かれる音楽フェスへの旅客輸送にターゲットを絞っていることがうかがえる。
そんな輸送目的とは裏腹に、大月に到着すると10人ほどだった先頭車両の乗客が半分以下になり、前から2両目に乗り移ってみると、若い男性が1人座っているだけ。
富士急行線内に入ると列車のスピードが落ち、細かな曲線を辿りながら登り勾配を進む。
列車は、スイッチバックが必要な富士山駅までノンストップとなっているものの、単線なので都留市と三つ峠で大月行き列車との行き違いで数分ずつ運転停車。

20分ほどかけて食べ終わり、人の気配が感じられない駅前で缶コーヒーを飲みながら涼しい風を受けてひと息つく。

最近このエリアに足を踏み入れると、海外からの観光客でごった返していて自由に身動きが取れなかったり、帰りの足を確保しづらかったりすることが多いが、この日はご覧のとおりのんびりした雰囲気で、新宿行きの特急「富士回遊」の指定席も問題なく押さえることができた。
乗り込んだ「富士回遊」の座席上ランプは空席を示す赤色の方が多く、こりゃあゆったり過ごせるな、と思っていると発車直後に私の隣席以外の赤ランプが一斉にこの先の駅から予約が入っていることを示す黄色に変わる。
団体さんでも入ったのかなぁ、と思いながら先ほど通勤車両で登ってきた勾配を下っていく特急車両のリクライニングシートで過ごしていると、都留文科大学前に停車。
車内に大きな動きのないまま発車し、列車は富士山麓の曇り空の下をさらに高度を下げていく。
一旦停止後に中央本線の下り線をまたいで大月駅に着くと、先ほど黄色に変わったランプが全て予約区間に入ったことを示す緑に。
さて、どんな団体さんが乗り込んでくるのかなぁ、と思いながらデッキと客室を仕切る自動ドアの方に目をやるが誰も乗ってこず、編成の後ろに甲府からの「かいじ」を連結して大月を発車。
私の隣以外全て緑ランプなのに半分も席が埋まっていない「富士回遊・かいじ」の1号車の不可解な状況に首を傾げていると、赤ランプの隣の席に座席未指定券で乗ってきたと思われるハイキング姿の初老男性が腰掛け、大きくため息をついた。
(おわり)



