【90】からのつづき
お目当てのバーは、事前に教えていただいていなければ、まず気付かないであろう雑居ビルの3階にあった。
戸を開くと、控え目な照明の下のカウンター左端に男女の2人連れ、右側にはタバコをくゆらせる男性がおり、ダンディーなバーテンダーさんに初めてであることを告げながら真ん中あたりの席に腰を下ろす。
お願いしたアイラを注ぎながら、「ご出張ですか?」とお尋ねになるオーナーらしきバーテンダーさんに「そうですね」と答えると、「どうやってこちらを?」と更問いを受けたので、ホテルのバーで教えてもらったことを伝える。
するとさらに「JALシティですか?」と聞かれたのでうなずくと、納得されたような安心されたような表情をされ、タバコの男性客の前に移られた。
バーではあまり客の素性を尋ねないものだが、最近はイロイロな客がいるし、地元客でも気付くのが難しそうなこの店に出張ついでに現れたという私は十分に怪しく映っただろうから、腹はたたない。
先ほどのホテルでは手堅い品揃えだったので、アイラで少し変わったところを、と従業員らしきバーテンダーさんにお願いすると、これらのボトルを並べて下さる。
いずれも知られた銘柄だが、変化あるバージョンが並べられる。
そんな中から右端のキルホーマントリスケルをお願いする。
日本市場向けの限定ボトリングで、バーボン樽75%、STR樽20%、シェリー樽5%の割合で三つの異なる原酒が用いられており、キルホーマンらしい力強いピートスモークの中から、プラムに似たアロマが感じられ、バニラのような甘味にベリー系のニュアンスが加わってうまい。
ちなみにSTR樽というのは赤ワイン樽の内部を削って焼いたものとのことで、味や香りのふくよかさと変化を生み出すキーになっていることなどをバーテンダーさんが教えて下さる。
バーのハシゴを締めくくり、爽やかさの増した杜の都をぶらぶら。