中沢酒造さん初訪問 | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

 過日、今年24蔵目の酒蔵訪問で神奈川県の松田町へ。


小田急線から新松田駅のホームに降り立つと、丹沢山地の南端にあたる松田山は雲の中。


構内跨線橋を渡り、駅のトイレに立ち寄ると大幅にリニューアルされており、入り口にはフック付きのリュック置き場もあって、丹沢ハイキングの拠点駅としての快適性を高めている。

改札を抜けると、駅前ロータリーには富士急湘南バスの寄(やどりき)行きと西丹沢方面行きが発車を待っており、女性の肉声案内放送が流れて、ちょっとした観光地の雰囲気。
寄は、小田急線渋沢~新松田間の車窓に見える寄入口交差点から中津川沿いに山あいを進んだ先にある集落で、学生時代に一度訪れたことがある。

当時は貸切兼用と覚しき日野ブルーリボンが走っており、山の空気と川のせせらぎが相まって山梨県内に来たような錯覚に包まれ癒された。

先ほど案内放送をされていた女性が乗り場に出てドライバーさんと談笑されていたので、丹沢の紅葉の進み具合などをうかがいつつ、これから向かう酒蔵さんの方角を尋ねると、「この先にあるウチの折り返し場を過ぎて右に曲がった先の左手です」と、よどみなく教えて下さる。

女性にお礼を言って寄行きのバスを見送り、駅前の「ロマンス通り商店街」を3分ほど進んで右に折れると、左手に酒蔵らしい雰囲気の建物が見えてくる。

こちらは「松美酉」「松みどり」「亮」などの銘柄を送り出している中沢酒造さんで、再来年創業200年を迎える。

小田原の「だるま料理店」さんで一杯やるときは、松みどりの熱燗を愛飲しているので、いつか訪れたいと考えていたところ、9月末に酒蔵見学の予約枠がわずかに空いているのを見つけ、念願を果たす機会を得た。
杉玉(酒林)の掲げられた販売スペースで氏名を告げ、参加料の1000円を支払うと、500円分の商品券が手渡される。

開始時間になり10人ほどの参加者は、まず酒造りについてのビデオを見てお勉強。おそらく虎の門の日本酒造組合中央会の入るビル1階にある「日本の酒情報館」で流れているものと同じだが、じっくり視聴して基礎を再確認。

ビデオ視聴後、道の向かいに移動して第11代ご当主の説明を受けながら蔵の中を巡る。
ご当主は、酒造りの建物は大正時代の建造で約100年の歴史があることなどを説明しながら「うちは『工場』ではなく『蔵』なので、建て替えを行うと棲み着いた菌のバランスが失われて酒質が大きく変化してしまうので、私の代で新しくすることは考えていません」と、控えめながらも誇り高い宣言をされ、心の中で拍手を贈る。

今いる菌を採取して培養したのち、新たな蔵に塗布するやり方もあるものの、やはり菌の生息バランスは大きく変わり、酒の味も変化するだろう。

最近では、外からの菌を積極的に受け入れて日々変わる菌のバランスを観察しながら味の変化にチャレンジする酒蔵や、クリーンルームに近い環境で各種の機械を駆使した仕込みをする酒蔵もあるが、「酒造に貴賤なし」で、いずれの酒づくりも尊い。
米を蒸す際に使う釜や麹室を案内していただきながら、約200年にわたり全量の酒づくりを手作業で続けられてきた関係者のご労苦に敬意を抱く。
11月になると、翌年3月までほぼノンストップで続けられる酒づくりが始まるので、当然のことながら酒蔵見学も中止される。
今は空になっているタンクも春を迎える頃には、蔵人の想いが溶け混んだ酒で満たされるのだろうと想像しながら、その頃にまた来たいと思う。

最後に酒を絞る槽(ふね)を見学し、絞り袋を手に取らせてもらいながらの質問タイムになると、皆さん熱心に尋ねていて微笑ましい。

見学の冒頭にご当主から「酒づくりにとってより重要なのは『米』と『水』のどちらだと思いますか」とのクイズが出され、私以外の全員が「米」に挙手して不正解だったせいか、水に関する質問も多い。

質問タイムが終わると、先ほどビデオを視聴した建物に戻って試飲と販売タイム。

前週に訪ねた泉橋酒造さんの「酒友館」にあったものと同型のマシンに6種類が収められており、皆さん2~3種類を試したのち、ほとんどの方が「松みどり 純米吟醸 ひやおろし」を購入している。

おそらく、正式リリース前の販売という説明が効いたのだろうと思いながら、純吟系を3種類を試してみると、皆さんが買い求めたひやおろしには明らかな個性がある。

稚拙かつ独りよがりな比喩で恥ずかしいが、ラムネのような香りを帯びながら軽快さにとどまらない風味と味わいは、先ほど雲間にあっても小田急線のホームから確かに存在を感じさせた松田山のような風情で、「山高きがゆえに尊からず」という名言を思い起こさせる。
500円分の商品券を添えて、ひやおろしの支払いをしながら、多少の質問させていただくと、いくつかの酒の使用酵母のことや、隣の開成町で自社栽培している酒米は「若水」であることなど包み隠さずを教えて下さる。

念願の酒蔵を訪れることができ、いい酒を手に入れた喜びに足取り軽く新松田駅を目指すと、雲の切れ間から松田山の姿が見えてきた。
(つづく)