その前に夕暮れ迫る藤棚商店街を歩き、偶然見つけた銭湯「太平館」でひと風呂。

破風に掲げられた木彫りの鯉を見上げながら暖簾をくぐり、服を脱いで浴室に入ると、洗い場がひとり分ずつアクリル板のようなパーテーションで仕切られている。スーパー銭湯やフィットネスクラブなどではよく見かける仕切りだが、商店街の銭湯には珍しい。
さっぱりして、振り向き様に再び破風を見上げて鯉の木彫りに別れを告げ、藤棚バス停を目指して商店街を戻る。すると、最初の辻で交差する狭い道路の先にバス停と10人ほどの客の姿が。近づくと、「サンモール西横浜」という停留所で、1時間に1本の保土ヶ谷駅行きが間もなく到着する。乗ったことのない路線なので、買い物帰りの方々に続いて、風呂で火照った体のまま、保土ヶ谷駅行き「浜4」系統相鉄バスに乗車した。
中型バスで運行される「浜4」系統は、久保山周辺の坂に張り付いた住宅地を細かく回る生活路線で、カーブと勾配の狭い道を進むのが楽しい。横浜市内には、市バスの「21」系統や神奈川中央交通の「11」系統など、山の手の住宅地を隘路や勾配で結ぶ魅力的な路線がいくつかあるが、この「浜4」は濃い生活感が加わり魅力が増す。そんなことを感じつつ、ドライバーさんの腕前とご苦労を眺めているうちに終点の保土ヶ谷駅に着いた。
先ほど、湯上がり直後にバスに「衝動乗り」したため、喉がカラカラ。どこかにいい店はないかと、あたりを見回すと、国道沿いのアーケードに「焼きとり、もつ煮込 創業昭和28年 三河屋」の看板を見つけ、迷わず入店。

カウンターに座りレモンサワーと煮込み、本日のオススメという「舞茸の肉巻き」を二本。
レモンサワーを一気に飲み干し、濃厚な煮込みを頬張る。煮込みは、月島「岸田屋」のようなドロリとした甘口だが、八丁味噌のような苦味も感じられ、「三河屋」の店名から愛知にゆかりのある味付けなのだろうかと勝手な想像を巡らせる。添えられた豆腐は味が染みても崩れない硬さで、モツは白い脂を取り除いていないハイカロリータイプ。
オススメの舞茸肉巻きは、500円玉の直径ほどにまとめられた舞茸の束をベーコンで巻いたもので、ひとつで腹がいっぱいになりそうだ。
刈穂の超辛口山廃純米を熱燗で頼み、ハツ、レバー、タンをタレで一本ずつ注文。焼き物は、ネタが端正に切られ鮮度も問題なし、刈穂がすぐに空になる。
カウンターが地元のオヤジさんたちで埋まり始めたので最後に地元神奈川は厚木七沢の黄金井(こがねい)酒造が醸した「盛升(さかります)」を冷やでやっつけてお会計。約2500円は下町価格。
暮れなずむ保土ヶ谷を少しフラフラしてから横須賀線で家路に就いた。