お風呂と酒と路線バス(82) | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

過日、宇都宮で一杯。

目指す居酒屋「庄助」の開店は午後5時なので、その前に真岡鉄道に初乗車。路線単位で未乗なのは、首都圏では真岡鉄道だけなので訪ねてみたが、始発の下館には何度か訪れており、7月にも関東鉄道のビール列車からほろ酔いで降り立ったばかり。

その下館の真岡鉄道のホームに向かうと、1両だけのディーゼルカーが発車を待っている。



ホームでは美男美女の若いカップルが代わる代わる車両の前で写真を撮っており、中国語を交わしながらカメラのモニターを見せ合っている。
おそらくローカル線が観光資源として高い価値を持つ台湾からの旅行客だろう。最近、台湾のローカル線と日本の第3セクターが提携して互いの誘客に努めているが、その効果だろうか。江ノ電あたりでもアニメ「スラムダンク」のフィーバーで台湾からの旅行客が増えていると聞く。

時間になり件のカップルと私を含め10人ほどを乗せて発車。カップルは、運転席脇に陣取って「前展望」を楽しんでいるから、なかなかの乗り鉄ぶり。関東平野を走るので車窓の風景は概して平凡だが、のんびりした雰囲気に心が和む。が、惜しむらくは車内が通勤車両のようなロングシートであること。空いた車内ではロングシートのほうが開放的ではあるが、やはりボックスシートのほうがローカル線の味わいが深まる。

下館から二つ目の折本で対向列車と交換となったが、向こうから来た列車はボックスシート。と、いうことは、次の下館発の列車はこの車両なので、どこかで途中下車すれば、そこから先はボックスシートで歩を進めることができる。そんなこともあり、このまま終点までは行かず中間地点より少し手前の真岡で下車することにした。

真岡は、会社名になっている通り、真岡鉄道の中心的な駅で本社や車両基地もここにある。また、国鉄時代に活躍していた9600型(愛称キューロク)蒸気機関車(SL)などを展示している「キューロク館」もあり、特定日には機関車にコンプレッサーで圧縮空気を送り込み、わずかながら自走させるイベントも行われる。ちなみに、真岡鉄道は毎週末、下館~茂木間にSL列車を走らせており、SLを観光資源の中心に据えていることがわかる。

駅舎内の立ち食いそば屋で遅い朝食を摂り、キューロク館へ。今日は特にイベントはないが、キューロクにつながれた旧型客車に足を踏み入れて、昔の汽車旅の雰囲気を味わう。

併設されたカフェでコーヒーを頼むと週末だけの営業と言われ、仕方なく缶コーヒーを買い駅前のバス停でボンヤリしていると適度に時間がつぶれ、次の列車の時間になった。

やってきたのは、予定通りボックスシートの車両で今度も10人ほどが乗っている。進行方向左側のボックスを独り占めして、先ほどの風景の続きを楽しむ。途中、焼き物で有名な益子でほとんどの客が降り、残った3人ほどを乗せて末端区間を走り終点茂木到着。ここから3駅戻り市塙(いちはな)から烏山へのバスに乗り継ぐことにしている。ローカル線の終点付近から他の路線の駅へバスで移動するのは私の大好きな旅の行程で、今回も茂木、市塙、益子、真岡のいずれかから宇都宮方面への「短絡」の道を探った。その結果、この時間帯に乗り継ぐことができるのは市塙~烏山ルートだとわかり、烏山からは久々にJR烏山線で宇都宮方面に向かうことにした。

茂木からの折り返し列車は、高校生で満員だったので、仕方なく、といった感じで運転席脇の「かぶりつき」の場所に立つが、実は嬉しい。市塙に着き、共に下車した高校生たちが、迎えの親の車で消えると私ひとりがトトロのように古びたバス停の脇に取り残された。

田舎の無人駅の昼下がりに佇んでいると、ネコバスならぬ古びたマイクロバスがやってきて、私は開いたドアから客のいない車内に乗り込んだ。

このバスは、那須烏山市が運営しているが、実際の運行は地元の貸切バス事業者に委託されている。20年は経っている三菱ローザは簡素なシートで決して乗り心地は良くないが、地元の人たちのためのバスに「便乗」した身で文句は言えない。そういえば以前、某行政機関の三菱ローザで札幌から夕張まで往復3時間隣に巨漢の同業者が座り今日と同じようなシートでの「座敷牢」を経験した時は翌日腰痛になった。今日は、隣席に人がいないばかりか烏山までの約40分誰も乗って来ず、結局私ひとりの貸切バスとなった。

次の烏山線までは約1時間あるので、烏山に古くから伝わる「山あげ祭」についての展示を行っている「山あげ会館」を見学。駅までの帰り道にスーパーで小さい海鮮丼とビールを買って駅のベンチで遅めの昼食。

目の前には次の列車が充電中。この列車は、日本で通常運行される唯一の充電式車両「ACCUM(アキュム)」で運転される。

烏山線は、電化されていないが、始発の宝積寺と終着の烏山、乗り入れ先の東北本線で充電を行い蓄電池に貯めた電力でモーターを駆動させる。

発車時間が近づき半自動ドアのスイッチが点灯したので車内に入ると、どこかの通勤区間に舞い戻ったかのようなロングシートが並ぶ。時間になり発車すると、ますます通勤電車のような乗り心地だが、加速は車検時に代走するディーゼルカーに合わせているのか、かなりゆっくり。烏山線に乗るのは四半世紀ぶりで、次に乗る時には高齢者になっているかなぁ。途中から高校生がわんさか乗ってきて満員となり賑やかな状態で終点の宝積寺到着。東北本線で宇都宮に移動し、10分ほど歩いて「グランドスパ南大門」へ。ここは、いわゆる健康ランドで入浴料は通常1800円だが、90分の「クイックコース」なら700円で楽しめる。新しく広々した風呂でさっぱりして夕暮れの宇都宮の街を「庄助」目指して歩く。

南大門から7~8分で「庄助」到着。


まずは生ビールで湯上がりの体を冷ます。お通しの高野豆腐で生ビールが空き、会津の酒「末廣」をぬる燗で注文。目の前の大皿から里芋煮を頼みぬる燗で流すと、秋の夕暮れの風情。昔は芋類が苦手だったが、40を過ぎてから里芋やらでの一杯を覚えた。この店の里芋煮は車麩とともに薄味で仕上げてあり、どの酒にも合いそう。


カウンターに座る私の右では、黙々と杯を傾ける渋いオヤジが佇んでおり、左ではメートルの上がった爺さんがフィリピーナに騙された愚痴を誰にともなく語っている。


後ろのテーブルでは地方紙関係者と同じグループのテレビ局関係者と思しき3人組が地方の情報のあり方について語りあっている。各人がこの店での時間を思い思いに過ごしているが、それらが不思議と調和して店内の雰囲気を作っていて居心地がいい。


そんな店の雰囲気を味わいながら、愚痴のおじさんに倣って「末廣」を今度は常温で頼み、渋いオヤジを真似てドショウの卵とじを注文。


ドショウをつつきながら常温の末廣を呷ると、なんとなくこの店の「調和」に加わることができた感じがしてきて、宇都宮の夜が心地よく深まった。