アンデシュ・ハンセン博士による『スマホ脳』が日本でも話題を呼びました。

スマホを長時間使用したことで成績が低下してしまった子どもたちの脳には、

いったい何が起きているのか、改めて最新の研究を見ていきたいと思います。

 

東北大学加齢医学研究所の所長、川島隆太氏が上梓した

『最新研究が明らかにした衝撃の事実スマホが脳を破壊する』も参考になります。

以下に要点を整理しています。

 

児童・生徒の3年間の脳発達とインターネット利用頻度の関係を解析し、

驚くべき結果を出しています。

インターネット習慣が多いことが原因で大脳灰白質体積の増加(発達)に遅れが認められています。

インターネット習慣に関しては、「使わせない」「まったくしない」「ごくたまに」

「週に1日」「週に2~3日」「週に4~5日」「ほとんど毎日」の7群に分けて実証研究が行われ、

1回目に調査したインターネット習慣が3年間の脳発達に与える影響を統計的に検証しています。

すると1回目の検査時では、大脳灰白質体積に群間差はなかったのですが、

3年後にはインターネット習慣に応じた発達の差が認められたのです。


 インターネット習慣がない、あるいは少ない子どもたちは、

3年間で全脳の灰白質体積が増加しているのに対して、

ほぼ毎日インターネットを使用する子どもたちの全脳の灰白質の発達に注目すると、

増加の平均値はゼロに近く、全脳の灰白質の発達が3年間でほぼ止まっていることが判明しました。

前頭葉、側頭葉、小脳など多くの領域に悪影響が出ていることを読み取ることが分かる結果です。


このデータはインターネット習慣との関係をみたもので、

スマホ習慣との関連を直接調べたものではありませんが、

内閣府のデータをみても中学生の65.8%、小学生では40.7%がスマホを使って

インターネットを利用していることがわかっていますので、スマホ使用との関係があることが推測できます。

 

 認知機能、すなわち脳の機能は、大脳灰白質の体積だけで決まるわけではありません。

情報処理機器としての「脳」を考えると、神経細胞のネットワーク自体が大事だという考え方もあります。

そこで神経細胞のネットワークの部分、すなわち神経線維層である大脳白質の3年間の発達に関しても、

MRI画像で同様に調べています。


3年間の脳の成長を追跡した結果、インターネット習慣が多いほど

大脳白質の発達が統計的に有意に遅くなっています。

MRI画像上、局所の白質密度が3年間の成長で増えていない、

すなわち成長に伴う白質の発達が認められていません。


 インターネット使用の頻度が高いと、大脳灰白質や小脳内を結ぶほとんどの神経線維の

発達に悪影響が出ていることがわかります。

大脳全体でみても、インターネット習慣が多いと白質の発達が悪くなることがわかります。

ほぼ毎日使う群では、3年間でほとんど発達が認められません。


その結果、インターネット習慣の頻度が高いと、

3年の間に言語性知能が低下することもわかりました。

スマホ使用が学力を低下させる原因が、みえてきました。

おそらくスマホによる頻回のインターネット使用によって、

脳発達自体に障害が出ていたと思われるのです。

前述のデータを当てはめて考えると、スマホを毎日高頻度に使う子どもたちの脳は、

3年間という期間でみると大脳全体の発達がほぼ止まってしまっていたため、

勉強しようがしまいが、睡眠を充分にとろうがとるまいが、学力が上がらなかったと推測できます。


 例えば中学3年生で考えれば、スマホを1時間未満しか、

もしくはまったく使っていない生徒は中学3年生なりの「脳」を持っているのに対し、

スマホを高頻度で使う生徒の「脳」は小学6年生のままである可能性があるのです。
 スマホが破壊(あるいは脳をスマホが代替したために起きている脳機能低下)していたものは、

「学力」ではなく、「脳」そのものであった可能性が高いのです。